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第2話 神秘公開同盟

「どうよ、恭二きゅん! 天才かつ鬼才かつ奇才たる私の天空芸術を目にした感想は!」


「前衛的すぎて理解できなかったかな」


 自慢げに訊いてくる銀髪の少女に対し、俺はそんな適当な返事をした。


 星座、もとい汚言の文字列を空に描いた占星術師シェラ・アルタイルは、あからさまに拗ねて見せた。


「なっ! 恭二きゅんは私が楽しくお絵描きできればいいって言ってたじゃん!」


「お絵描き? 便所の落書きにも劣るあれを芸術と同列に扱うつもりですかぁ?」


 椅子に置いてあるフランス人形がシェラを詰る。生ける人形、グラムダルも、さすがにあれは無いと思っているようだ。


「まあまあ、トイレ繋がりでいえば、既製品の便器が美術展に出された例もあるし。シェラのも芸術と言えなくはないかな」


 人間形態のカノンが丸く収めようとする。フォローになってないけどな。


 マルセル・デュシャンの『泉』とシェラの天空落書き。単純比較はできないが、どちらも常識をぶち壊すには十分な布石だろう。


「なんにせよ、俺たちの計画は成功に終わった。空に落書きするなんて、通常は不可能だ。いくら物体の色を変える異能を持つ、シェラであってもな」


 俺が切り出すと、皆静まり返る。


「つまり、あの空が偽物の天蓋であると、誰もが思い知ることになる!」


「いいですね! 和泉に天離、アイレスフォードにステファノプロス! いけすかない異能一族の困り果てる顔が眼に浮かびます!」


 グラムダルは狂喜し、曲がらない脚で踊ろうとして倒れた。どんだけ奴らに恨みがあるんだよ。


「これから秘匿協会との全面戦争かな?」


 グラムダルを拾い上げ、カノンが不安げに問う。


「大丈夫だ、このメンバーなら勝てずとも逃げ切れる!」


「逃げるってどこへ?」


「異能が自由に使える新たな世界に、だ!」


 そう。異能が一般的になるよう、今の世界を作り替えてしまえばいい。それが達成されるまで逃げ切れれば、俺らの勝ちだ。


「でも早速、使い走り連中にここを特定されたみたいね」


 カノンは五感が鋭敏だ。とはいえ、そんなことまで分かるのか。


「もう引き払わないといけないの? 気に入ってたのに!」


 シェラは頬を膨らませて見せる。


「この廃ビルのどこに気に入る要素があるのです? これだからセンスゼロの落書き娘は!」


 グラムダルは早速シェラに汚言を返す。


 言葉のチョイスこそ違えど、口が悪い点ではこの二人、似た者同士だな。


「次のアジトは宮殿にでもするか?」


「いや、そんなの無理でしょ」


 俺の提案は、カノンにあっさり切り捨てられてしまった。こうなったら意地でも宮殿を占領しよう。


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