2030年4月25日23時。
新たなる星座が誕生した。
それは星座というにはあからさますぎた。なぜなら、星と星とを結ぶ線が既に示されているからだ。おとめ座をぶった切るようにして、その星座というか文字列は、燦然と輝いていた。
【バーカ、シネ】
空にはそう刻まれていた。さすがに漢字は諦めたか。
「シェラの奴、派手にやらかしたな」
俺は自室の窓越しに夜空を見上げ、悦に入る。これだけ派手に悪戯をすれば、各国政府や秘匿協会の連中も黙ってはいないだろう。
神秘の暴露と公開は、奴らの最も嫌うところ。
確かに、神秘が悪用されれば世の秩序は乱れる。だが俺は、そんな思想が気に入らない。神秘など資源に過ぎない。使い倒してナンボだ。
『おーい、恭二きゅん、見ってるぅ~? 』
少女の悪戯っぽい囁きが脳内に響く。早速シェラと念話が繋がったようだ。
「見てるよ、シェラ。だが俺は今実家に呼び出されていてな。今念話繋がれるとマズいかもしれない」
『辿られるかビビってるの? 恭二きゅんらしくなーい!』
自由人シェラは相変わらずの豪胆ぶりだ。まぁ、位置情報がバレたところでどうとでもなるのだが、多少面倒なことになるだろう。
「らしくないかな? おっと、こんな時間に誰か来たようだ。じゃ、また後でな」
早速、玄関のチャイムが鳴った。秘匿協会の連中がもう来たようだ。
俺は何ら恐れることなくドアを開ける。奴らは五人組で来ていた。
「スーツ姿の男がぞろぞろと……ヤクザの集会でもやるのかと思われますよ?」
俺が来客に対しそんな冷やかしを投げかけると、親父に頭を叩かれた。
「恭二、お前は静かにしていろ! して、協会の代行官が何用ですかな?」
「我々の追っている【公開同盟】の占星術師、シェラ・アルタイルとの通信が行われた形跡があった。何か知らんか?」
「ま、まさか! 恭二、貴様ぁ! この天離(あまさか)家の恥さらしが!」
親父は怒髪天を衝く勢いだ。
「まぁまぁ、そうカッカせんと、話し合いましょうよ! なーんて! 【蔵出し】―【尖塔】」
俺は天離に伝わる異能、魔力を練り込んだ建物を出し入れする【蔵出し】で天井に穴を空けた。
天離の『表』の家は普通の民家なので、簡単に破壊できた。
「貴様ぁ! 逃がさんぞ!」
下で何やら騒いでいるが、尖塔の頂上の部屋に飛び乗った俺にはよく聞こえない。
「恭二、捕まって!」
翼竜が接近してきていた。俺はすかさず竜の背中に飛び乗る。あっという間に自宅は遠退いていった。
「カノン! 助かった!」
「もう、無茶しすぎ!」
「半分シェラのせいだけどな」
ドラゴン少女カノンにピックアップしてもらい、俺は【神秘公開同盟】のアジトヘと急いだ。