「アルフレッド!!」
僕が叫んだ時にはお肉は既にその大きな口の中に吸い込まれた後だった。
あーあ……。やっぱり食べておけばよかった!
「えっ?!大魔法士様?!どうしてこんなところにいらっしゃるのですか?」
目の前に座っていたエルモアとエイダが目をまんまるに見開いて驚きの声を上げる。
しまった。まだ二人には僕が弟子になったことは言ってなかったんだった。
「エルモダ、エイダ、こちらがご存知の通り大魔法士アルフレッド様です。私の師匠になってくれることになりました」
「しっ師匠ですって?!ジスが弟子入りしたってこと?!」
どうしてそんなに驚くの。
あっ、弟子になったら婚約破棄しないといけないから?それはご安心あれ。アルフレッドが話をつけてくれるらしいから。
「大魔法士様、初めまして。お目にかかれて光栄です」
席を立ってお辞儀をする二人。
僕も一緒にした方が良かった?じゃあ頭だけちょっと下げとくね。
座ったままぺこっとして顔を上げた僕の口に、またさっきの肉が入ってくる。
わ〜!やっぱり美味しい~!
その後もアルフレッドはフォークに刺した肉を次々と僕の口に放り込んだ。一生懸命口を開けるが大きめの塊は大変だ。
「ジス……弟子っていうか飼われてる小鳥みたいね」
「ああそうね。ペット感がすごいわよ」
「ペット??」
なんで?と首を傾げたところに先ほど部屋まで届くよう魔法をかけたテキストが目の前をふわふわと通り過ぎた。
……今頃?やっぱり持って行ったほうが早かったかも。
けれどその様子は大魔法士様をいたく喜ばせてしまったようだ。
「その大笑いやめて下さい」
「いや、おまえ!!だってあれはないわ!いつになったら目的地に着くんだよ!」
自分でも分かってる。でものびしろがあるって言って欲しい。
「あ!それより杖!魔法使う時にはいらないらしいじゃないですか。どうして教えてくれなかったんですか」
「杖?ああ、『魔法の』杖な?」
そう言うなりまたくっくっと思い出し笑いをしてる。ほんとに性格悪い。
「おもちゃだって教えてくれたらよかったのに。いらない恥をかきました」
「あははは!悪かったよ」
本当にそう思ってるんだろうか?
「でも杖を振り回すジスはとても可愛かったわ」
「エルモアは優しいわね。でも慰めてくれなくてもいいの。きっと教室中の人に頭おかしいって思われたから」
だってみんな僕を見てたもん。
「そんなことないわよ!」
今度はエイダが机をドンと叩く。
「断言するわ!あそこにいたクラスメートは全員ジスのファンになったはずよ」
(……そんなわけあるかい)
心の中でツッコミを入れていると、またしてもエルモアが微笑ましそうに『先生の鳥を眠らせたあたりからその流れだったわよね』とよく分からない事を言う。
……そうだあの鳥はとても可愛かった。また先生にお願いして出してもらおう。
「何にせよ私は悪役令嬢だから人になんて思われても構わないのよ」
ふふんと髪をかき上げて悪そうな顔をして見せるが前に座っているエルモアにハンカチでそっと口元を拭かれた。
あ?ソース?どうもありがとう。……カッコつけたけど台無しだね。
「ところで大魔法士様はどうしてこちらに?」
「ああ、チャーリーと話をするために探してたんだが……」
「ああ、チャーリー様なら国の公式行事でお休みですわ。明日は来られると思いますが同じクラスですので何か伝えておきますか?」
「ああ、ジスと婚約解消の手続きをしろと伝えておいてくれ」
「えっ?どういうことですの?」
アルフレッド……説明が雑過ぎる。
仕方なく僕が説明をした。
「大魔法士様の弟子になるに当たって婚約者がいてはならないって決まりがあるらしくてチャーリー殿下と婚約解消をする運びになりました」
「「…………」」
……あれ?ちゃんと聞こえなかったかな?
「大魔法士様の弟子……「大丈夫、聞こえたわ」」
それなら良かった。
良かったけどエルモアとエイダがじんわりとした目でアルフレッドを見ている。
でも見つめられているアルフレッドはわざとなのか目を合わそうとしない。
「……大魔法士様」
「なんだ。無理やりじゃないぞ」
「それならいいんですけど。ご覧の通りこの子はなんでも信じてしまいます。大魔法士様とはいえそれを逆手にとって悪用されるつもりなら容赦しませんことよ」
「分かってる。悪意はない」
「……ねえ。三人でなんの話をしてるの?」
「なんでもない」
仲間はずれ?悪役令嬢だから?
早速僕の演技が上手くいってるってことかな?
「あら、そろそろ午後の授業が始まるわ。準備しないと。ジス行くわよ」
「あらもうそんな時間なのね」
僕たちは慌てて席を立った。そうだ、今後の予定を師匠に聞いておかなければ。
「アルフレッド、今日は弟子の練習しますか?」
「いや、今日は忙しい。一日遅れだが編入生が入ってくるんで学院長に面倒見るよう頼まれてるんだ」
「分かりました」
「あら、またクラスメートが増えるんですのね。楽しみですわ」
エイダが興味津々の顔でアルフレッドに詳細を尋ねている。僕なんか誰の顔も名前も覚えてないから一人増えたってなんにも変わらないけどね。
「なんでも魔術師たちが昨日召喚したらしい。聖女見習いだと言ってたな」
「まあ!聖女見習いなんて素敵!仲良くならないと!」
へえ、召喚ですか。聖女見習……えっ?!
召喚した聖女見習いってヒロインじゃないか!
確か二年から編入のはずだったのにどうしてこんなに早いの?!
「そんなわけで弟子は明後日からな」
「はい。いや、アルフレッド待ってください」
「なんだ?」
「聖女見習いと浮気しないでくださいね」
「「「!!!!!」」」
え?なんでそんなにびっくりしてんの?他の人(ヒロイン)を好きにならないで欲しいって言ったんだけど意味間違ってる??
「浮気って……お前……」
アルフレッドが驚いた顔でこっちを見てるけど……顔赤いよ?熱でもある?
「ジスったら弟子なんて言ってそれ以上の関係なんじゃない!やるわね!」
「どうしたの?エイダ?それ以上の関係って何?」
「あっ……」(察し)
軽く盛り上がっていた二人が突然可哀想な目でアルフレッドを見た。
もう。なんなの。
「とにかく明日は絶対お前のところに来るから。お前こそ浮気するんじゃないぞ」
「……?分かりました」
僕がそう返事をすると軽く頷いてあっという間に消えてしまった。
なんだか分からないけど、エルモアが僕を見ながら「ジスは立派な悪女よ」と言うのでとりあえず悪役令嬢の第一歩は踏み出せたんだと思う。
明日はヒロインとご対面になりそうだし、間に合って良かったと僕は胸を撫で下ろした。