授業が終わり、僕たちは昼ごはんを食べるために食堂まで移動することにした。
「ジス、テキスト持って行くの重いからまとめてジスの部屋まで飛ばしてくれない?帰りに取りに行くから」
なんでもないことのようにエイダが僕に本を差し出す。
「えっ?!」
今日は魔法学の初回ということで座学のみだった。魔法の実地はやってない。……もしかしてジスは優秀だからそんなくらいの魔法は普通に使ってたんだろうか。
「……やってみるわ!」
そうだよ。僕には魔法の杖があるんだから。床に寝かせてあった杖をゴソゴソと取り出すとそれを持って一心に念じた。
「え?ちょっとジス?」
みんなの荷物、全部まとめて僕の部屋まで!
「えいっ!!」
掛け声と共に杖を振ると重ねた本が浮き上がる。
「やった!!」
昨晩練習しただけのことはある。……まあ大惨事を引き起こしてしまったのはご愛嬌だ。
「すごいわジス。でもどうして杖を?」
「え?どうしてって……。魔法使うには杖が必要でしょ?」
「……ごめんなさい。貴方記憶喪失だったわね」
申し訳なさそうにエルモアが僕を気遣う横でエイダが笑い転げている。
エイダと言いアルフレッドといい失礼だな。
「魔法に杖は使わないわ。どこかの国のおとぎ話で杖を持った魔法使いの描写があってね、一時期お土産なんかで流行っただけよ……。まあ、言ってみれば……」
「……言ってみれば?」
「子供のおもちゃ?」
「……!!!」
何それ恥ずかしい!!周りを見渡すと残っていたクラスメートたちがなんとも言えない顔で僕の方を見ていた。
……そりゃそうだ。良い年してドヤ顔でおもちゃ振り回してたら変に思われるよね……。
「で、でもすごいわよ!テキストがちゃんと部屋に向かってるじゃない!」
「……慰めはいらないから……。それに思ってたのと違うわ」
アルフレッドの瞬間移動をイメージしてたんだけど、テキストの束はふわふわと目線の高さをゆっくり移動してる。歩いた方が早そうだ。
なんなら昼ごはんを食べて部屋に戻ってもまだ着いてないかもしれない。
「やだ!取り消したい!」
こんなの恥の上塗りだ。けれど何度止めようとしてもテキストは止まらない。掴んでもすごい力で抗い、絶対に進むことを止めない。意思を持って部屋に向かっている生き物みたいだ。
「まあ良いじゃない。そのうち着くわよ。それよりご飯食べに行きましょう?朝ごはんが簡単だったからお腹すいちゃった」
「そうね。眺めてても仕方ないしね」
「ううっ」
こんなはずじゃなかったのに……。それよりアルフレッドは杖のこと絶対知ってた。それなのに面白がって黙ってるなんて酷すぎる。
「ジス、可愛い顔が台無しよ?お腹いっぱいになったら気分も良くなるわ。何食べる?」
「私はそんな単純じゃないんだからね」
僕はぷんっと顔を背けた。
「ふふっそうね。そういえば今日の限定ランチは星屑のローストらしいわ」
「星屑の?」
「そう。肉をローストして月明かりを浴びたスパイスで味付けしてるんですって。焼き上がりはほんのり青白く光るそうよ?」
え?なにそれ凄い!
「聞いたことあるわ。この学園の名物でとても綺麗で美味しいって。でもスパイスが手に入りにくいから滅多に食べられないの」
「早く行かなきゃ売れ切れちゃうわね」
それは困る!
「エルモア!エイダ!走って!」
僕は二人の背中をぐいぐいと押す。
そしてきゃあきゃあと大騒ぎをしながら三人で食堂まで急いだ。
まだ少し時間が早いからか、食堂は程よくすいていた。僕たちは窓際の四人がけテーブルに席を取ってからカウンターに駆け込む。
「星屑のローストまだありますか?!」
「丁度三食分ありますよ。ラッキーでしたね」
そう言ってシェフが用意してくれた料理は確かに青白くキラキラと光っていた。
「ふわあ~いい匂い」
朝ごはんをあんなに食べたのにまたお腹が鳴る。その音を聞いたシェフは僕の皿にもう一枚お肉を追加してくれた。
「いただきまーす!」
うわ!お肉がめちゃくちゃジューシー!それにスパイスにコクがあってグレービーソースがよく合ってる。上に乗ったふわふわした白い飾りは雷雲らしく、口に入れると少しピリッとする。それがまたいいアクセントだなあ。
「本当にジスは食べるのが好きね。昔からだったかしら?」
エイダの言葉に僕はビクッとして固まった。……偽物だってバレた?
「以前から甘いものは好きだったイメージよ?まあ沢山食べるのはいいことだわ」
「そうね」
……よかった。気をつけなきゃ。
美味しいものに囲まれてつい欲張っちゃうけど、そもそも公爵令嬢のアメジストはもっと上品なはず。こんなにガツガツ食べたりしない。
そう思うといやしい自分が恥ずかしくなってそっと皿の上にナイフとフォークを置いた。
「あら?もうお腹いっぱいなの?」
驚いた顔で僕を見るエルモア。それはそうだろう。昨夜だってすごく沢山食べちゃったし……。
「……ええ、そうなの。お腹いっぱいで……」
そう言いながらも名残惜しい気持ちでお肉を見つめてしまう。ああ僕のバカ。
でもジスがこの体に戻ってきた時に大食いだと謂れのない悪口を言われるのは避けなければならないのだ。
「いらねーならもらうぞ」
「えっ?」
その言葉と共に僕の皿の上から肉が消えた。