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第17話 初めての授業

「ふぁひひへふんへふ!はふふへっほはま!」


 女の子が必死に何か訴えている。


「え?大丈夫……?じゃなかった。何やってるのよ、無様ね?」


(あわわ……あんなに大変そうなのに言い過ぎたかな?)


固唾を飲んでことの成り行きを見守っているとアルフレッドとバッチリ目が合った。


「……お前本当面白いな」


「アルフレッド!僕ばかり見てないであの子を助けてあげて!」


「なんでもない。うるさいから口を縫い合わせただけだ」


「縫?!?早く元に戻して!」


「……ちっ」


 アルフレッドが小さく手を振ると女の子の口がぱかっと開いた。


「はあっ!びっくりした!アルフレッド様!未来の花嫁に酷いです!」


「……まだ言うか」


「当然です!後で正式に結婚申込書を実家から送りますからサインだけして送り返してください!」


 それだけ言うとその子はあたふたとどこかへ消えてしまった。


「あの女バカなのか。サインなんかするわけねーだろ」


 胡乱な目で彼女が去った方を見ていたアルフレッドは「な?」と僕に同意を求める。


「まあでもアルフレッドもいずれ結婚はしないといけないんじゃないですか?私にも一応婚約者はいますし」


「……は?なに?お前に婚約者?」


「え?そうですけど?」


信じられないものを見るような目で僕を見つめるアルフレッド。

……いやいや貴族の子女なら普通にいるでしょ。僕はもう15歳ですよ。


「人のいないとこに行くぞ。詳しく聞かせろ」


「え?あっ?!」


アルフレッドはそう言うとまた僕を抱きかかえて転移魔法を使った。カスパールが慌てて呼び止める声が聞こえたが一切気に留めていない。

ふわりと浮く感触が怖くなって僕はアルフレッドにしがみつき、目を閉じた。


「おい、もう目を開けていいぞ」


「……ここは?」


教室?誰もいないしんとした空間に沢山の机と椅子が並んでいる。

……ずっと憧れてた学校だ!僕はキョロキョロと周りを見渡した。


「ヒカリに言っておかないといけないことがある」


アルフレッドが仰々しげに声を低くして僕をみた。


「なんですか?」


「実は婚約者がいると弟子にはなれないんだ」


「ええっ?!そんな決まりが?!」


「だから婚約を解消する必要がある。相手は誰だか知らんけど」


「そんな……」


いや、でもどうせヒロインが登場したら快く譲るつもりでいた相手だ。別に早くなるのは構わない。大魔法士様の弟子になるために婚約を解消して欲しいと言えば相手も納得するだろう。ましてや結婚の相手は悪役令嬢(予定)だ。


「いいですよ」


「いいのか」


拍子抜けしたように僕を見るアルフレッド。……この人たまに表情が可愛いんだよな。


「ただ相手は王子なのでこちらからお断りが出来ません。アルフレッドが王子を説得してくれますか?」


「それはもちろん……王子?」


「はい、第七王子のチャーリー様です」


「……あいつか」


「ご存じですか?」


「ああ、馬鹿な犬みたいな奴だ」


「ばかないぬ……」


酷い。あまりにも酷い例えだ。曲がりなりにもアメジストが好きな相手なのに。……けれど想いは叶うことはない。アメジストが男の子である限り。


「まあ相手があいつなら余計に婚約解消した方がいい」


「はい。僕……じゃない私はこれから沢山魔法を学んでアルフレッドの跡を継ぎ大魔法士になります!」


その方が楽しそうだしね。


「よし、じゃああいつとの話は後でつけよう。そろそろ生徒たちも集まってくるからヒカリはここにいて授業を受けろ。俺は仕事に戻る」


「あっ、でも私何も持ってきてないです」


「初めての授業だから必要なものは配ってくれる」


「でも杖を部屋に置いたままで……」


クローゼットの奥に突っ込まれていた魔法の杖を思い出して僕は慌てた。


「……杖?」


「はい!魔法使う時に必要な奴です」


僕はわかりやすいようにえいっ!と杖を振る真似をした。


「……ぶふっ……取ってきてやろう」


「ありがとうございます!机の上に置いてあるので」


僕の言葉に頷くとアルフレッドは何故か半笑いで姿を消した。


「なにかおかしなこと言ったかな……」


それからしばらくして杖を持って来てくれたアルフレッドは、やはり半笑いで僕にそれを渡してくれた。


「じゃあ仕事に行くからしっかり勉強しろよ」


「はい、いってらっしゃい」


「……もう一度言ってくれ」


「……?いってらっしゃい?」


「……行ってくる」


僕の言葉に勝ち誇ったような顔をして姿を消すアルフレッド。なにが嬉しかったんだろう??

首をかしげながら僕は一番後ろの席に腰を下ろした。



「……いい景色だな」


大きなガラス窓の向こうに見えるのは切り立った崖と荒々しく削られた鉱山だ。それは無骨ながらも神秘的な様相を呈していた。


「実際にあそこに行ってみたいな。遠いかな?でも魔法を覚えたらアルフレッドみたいに一瞬で移動できるよね」


「早くその日が来ないかなあ」なんて考えていると外から賑やかな声が聞こえ始めた。そして間も無くドアが開き、少しずつ生徒たちが教室に入ってくる。


「あらジス!先に来てたのね」


エルモアとエイダが僕を見つけて隣に座った。


「部屋まで迎えに行ったのよ?ひどいわ置いてきぼりにするなんて」


「ごめんなさいね、ちょっと色々あって」


……朝から本当に色々あった。


「それより朝食は食べられた?朝から食堂で騒ぎがあったみたいで私たちは入れなかったの。仕方なくテラスでサンドイッチを食べたんだけど……」


……その騒ぎというのはもしかして……。




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