そうこうしているうちに大方の料理は食べ終えた。後は食後のお楽しみ甘いものだ。
「おい、お前の前にあるその皿はなんだ」
アルフレッドの目が厳しく光る。
「これはフルーツコンフィです。果物を煮詰めて甘くしたお菓子で……あっ!また食べるつもりですね?これはダメです。食堂の人が僕にだけくれたんですから」
「なんで特別扱いされてるんだ?」
「アルフレッドのために何回もカウンターを往復する僕が可哀想だってくれたんです」
「ぶふっ!!」
アルフレッドの後ろでカスパールが吹き出した。肩が揺れてるけどそんな面白いこと言ったかな。
「じゃあ一個だけくれ」
「……一個だけですよ?」
僕は渋々とガラスの皿を差し出した。
「口に入れろ」
「……はい」
赤ちゃんみたいだと思いながら指先で摘んだリンゴの果実を口元に寄せる。
するとアルフレッドは僕の手首を掴んでなんとばくりと指ごとそのリンゴを食べてしまった。
「どうして指まで食べるんですか」
「うまそうだったから」
そうか。なるほど。
確かにたくさんお砂糖が付いた僕の指は 美味しそうだった。
僕は何も考えず自分の指をぺろっと舐める。うん、甘酸っぱい。これは癖になる。
「……ヒカリ?!」
「え?」
アルフレッドもカスパールさんもどうしてそんな驚いた顔してるの?
……周りで様子を伺っていた人たちも同じような顔でこちらを見ている。
あ、指を舐めるなんてはしたないことしちゃった!令嬢としてあるまじきだ!
僕は恥ずかしくなって俯いた。
「ヒカリ」
「……はい」
怒られる?弟子をやめろって言われるかな……。
「弟子をやめろ」
ひぃん……やっぱり
「そして俺と結こ……いてっ!」
何事かと顔を上げるとカスパールさんがアルフレッドの長めの髪を思い切り引っ張ってる。
なにごと?
「アルフレッド様、落ち着いて下さい」
「分かったから離せ。消し炭にすんぞ」
「じゃあ絶対さっきのセリフは言わないでくださいよ」
「……分かった。流石に先走りすぎた」
ふうとため息をついてカスパールさんがアルフレッドから離れる。
一体何がどうなったのか分からないが弟子をクビになるのは避けないといけない。
「アルフレッド、弟子を辞めたくないです。なんでもするので弟子のままいさせてください」
「ジス様!?上目遣いめっちゃ上手ですね!アルフレッド様!ぐらついたらダメですよ!まだジス様は未成年です!」
「……分かってる」
……どういう意味?未成年だと弟子になれないの?それに上目遣いは仕方ないと思う。だってアルフレッドはびっくりするくらい背が高いんだから。
「さあそろそろ結界消してくださいねー。アルフレッド様もいつまでも遊んでないで仕事しましょう。ではジス様、また今度」
「はい、またお会いしましょう」
それが合図のように周りのぬるんとした壁が無くなる。さっきまでの静けさが嘘のように食堂内の喧騒が蘇った。
「じゃあまたな、『ジス』」
「はい、アルフレッド」
ザワッ!!!
……なんだようるさいなあ。毎日こんな騒がしいところでご飯食べないといけないならちょっと嫌だな。
そう思って周りを見渡すと皆が一斉にこちらを見ていた。
「な、なにかしら?」
「何かしらじゃないわよ!この泥棒猫!!」
「えっ?」
何を盗んだ覚えもないんだけど……。
「アルフレッド様、婚約者がいる身で誤解を招くような付き合いは控えられた方がいいと思いますけど。あの方はどなたです?」
金の巻き毛に青い瞳の女の子がアルフレッドの前に立ちはだかって僕を指さしている。
リボンの色が違うから上級生かな?
よく分からないけど挨拶しておこう。挨拶大事ってハンナが言ってたし。
「ごきげんよう」
「はあっ?!馬鹿にしてんの?」
だが目の前の女の子は怒り狂って僕に向かって走って来る。
ひぃぃぃぃ怖い。
僕が頭を抱えてうずくまると、世界が真っ暗闇に包まれる。
え?なにこれ?また魔法?
だが次の瞬間、僕の体はふわっと誰かに抱き上げられた。