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第14話 アルフレッドとの朝ごはん

翌日は早めに起きて身だしなみを整えた。

何しろ髪を自分で梳かしたこともないのだ。余裕を持って支度する方がいい。


「今まではハンナたちがやってくれてたもんな。でもこれからは全部一人でやらなくちゃ」


学園では身分に関係なく生徒たちに色々なことを学ぶ機会を与えるために貴族でも平民でも平等に扱われる。そんな意味合いから個人的に使用人を付けることは禁じられていた。


その分、学園に使用人が沢山いてクリーニングや部屋の掃除もお願いする事が出来るようになっている。けれど身の回りのことはなるべく自分でやるようにと学園から指導されていた。


「ああ可愛いなあ」


アメジストは本当に何でも似合う。

僕は沢山のアクセサリーをドレッサーのガラステーブルに並べてどれを付けて行こうか悩んでいた。

複雑なヘアスタイルはとても出来ないので、今日は綺麗に梳かした髪を一つに束ねる。そしてここに可愛いヘアピンを付けるのだ。


「このリボン型のも似合うな。色はどうしよう……」


「黒でいいだろ」


「黒かあ。制服が焦茶だからここは赤の方が……ええっ?!」


驚いて振り向くとアルフレッドが立っていた。


「レディの部屋に勝手に入ってこないでください!」


「ほらさっさと行くぞ」


「どこにいくんですか?」


「お前は弟子なんだから常に一緒に行動しないといけないだろ」


「あっ、そういうものなんですか」


知らなかった。申し訳ない。


「ほら来い」


突然アルフレッドは僕をぎゅっと抱き抱える。途端に周りの景色がぐるっと回り、気がつくと食堂に立っていた。


「ええっ?!すごい!」


……あれ?でも寮の中では魔法禁止と昨日言ってなかったか?


「俺は特別だからいいんだよ」


「そうでしたか」


あれ?僕今、口に出してたかな?

また心読まれた?


「きゃーーーっ!」


「えっ?なに?」


突然の黄色い声に周りを見渡すとその場にいた女子生徒たちが一斉にアルフレッドを見て小さく悲鳴を上げていた。


「大魔法士さまがどうしてここに?!」


「こんな近くで見られるなんて幸せ~♡」


そこかしこで上がるかしましい声とうっとりした表情。アルフレッドは嫌そうに眉間に皺を寄せ、僕たち二人を囲むようにシールド?結界?みたいなものをサッと張った。

透明なので周りの様子も全部見えるが、声を含め音は全て遮断されている。面白い~。


「ヒカリ、食べ物取ってこい」


「ジスです」


「ああジス、食べをものを……」


「でも僕たち閉じ込められてますよ」


「通り抜けられるから行ってこい」


「はい。何がいいですか?」


「なんでもいい」


仕方ない。これも多分弟子の仕事なんだろう。そっと透明の壁みたいなものに触れるとぬるっとした感触がしてつるんと外に出ることが出来た。……何となく何かの胎内から出入りしている気がしてあまり気持ちはよろしくない。


周りの注目を浴びながら注文カウンターまで行ってサンドイッチとホットドッグ、それにヨーグルトとサラダを手にして再びぬるんと戻ると「肉が足りない」と怒られた。理不尽。


「もう……」


僕はテーブルとカウンターを何度も往復して沢山の料理を師匠のもとに運んだ。一時間ほどしてようやく腹がくちくなったのか、コーヒーを飲みながら僕が食べる様子を満足そうに眺め出す。


「大魔法士さま」


「アルフレッドでいい」


「アルフレッドさま」


「様はいらない。弟子だからな」


そう言うもんなの?まあいいか。


「アルフレッド、今日みたいに勝手に部屋に入られたら困ります。一応アメジストはレディなので」


その言葉にアルフレッドは「確かに一応な」と、意地悪く笑う。


……この人、アメジストが本当は男の子だってことも気付いてるんだな。


僕は心の中でため息をつき、食事を再開した。


……え?待って?このフレンチトーストみたいなやつ凄く美味しい!卵とミルクとお砂糖の配分が神じゃない?甘味のないアーモンドミルクとすごく相性が良くてこれは大発見!シェフを呼べ!なんてね。


「美味そうだな」


「あっ?!」


僕が脳内で一人芝居をしているうちに、アルフレッドがパンにフォークを突き立てて半分近く持って行った。そして大きな口を開けてそれを一口で頬張る。


「……うわすごい!いや違う、ひどいです」


フレンチトーストとコップに注いだアーモンドミルクの分量をちゃんと配分して食べてたのに……。


「アメジスト様、怒っていいんですよ!」


えっ?誰?


今まで誰もいなかったはずのアルフレッドの後ろにいつの間にか一人の男が立っていた。


「初めまして。アルフレッド様の秘書のカスパールと申します」


そう言って微笑んだのはアルフレッドと同じ黒目に肩で切り揃えた黒髪を持つ綺麗な男の人だった。


「初めまして。アメジストと申します。気軽にジスとお呼びください」


……何となくだけど、このカスパールさんとはすごく気が合う予感がする。


「おい、俺にはそんなこと言わなかっただろ」


「何ですの?」


「急にお嬢様言葉使うな。カスパールも魔法士なんだからお前の正体なんてとっくに見破ってる」


「そうでしたか」


取り繕わなくていいのは楽だなあ。

僕は残ったフレンチトーストを小さく切って大切に食べ始めた。


「あ!!」


そんな僕の皿からまたしてもアルフレッドがトーストを掻っさらう。


「どうしてそんな酷いことを……」


「お前がカスパールにジスと呼べなんて言うからだ」


……それのどこがダメなのか分からないです。


「アルフレッド様もそう呼んでいいんですよ?」


「……カスパールと同じなんて気に入らない」


僕はどうしていいか分からずにとりあえず残っていたフレンチトーストを取られないように急いで頬張った。


「俺はヒカリと呼ぶ」


「ダメです。バレます」


「聞かれたら愛称だと言え。だが他のやつには絶対に呼ばせるな」


「……はい」


なんだか分からないが弟子ってこんなに大変なんだ。テレビではそんな風には見えなかったんだけどな。









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