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第13話 アメジストの恋心

 アルフレッドがこの学園に来たのはヒロインが登場してからだった。聖女の力に目覚めたばかりの彼女に力の使い方を教えて欲しいと学園長が依頼をしたのだ。そしてヒロインに出会った彼はあっという間に恋に落ちた。……それはもう不自然なくらいにあっけなく。


「……?なんだ?その顔。俺を知ってるのか?」


 僕はブンブンと首を横に振った。


「へえ……お前そんな貧相で鶏ガラみたいな見た目してんのに魂は真っ白で綺麗だなあ。こんなの見たことないわ」


 貧相?鶏ガラ?世界一の美少女であるアメジストになんて事言うんだ。自分のこと神様だなんて嘘ついて。うっかり信じちゃったじゃないか!


「……レディに失礼ですわよ」


「あはははは!レディ!?」


 ……本当に失礼だな。


「アメジストに言ってんじゃねぇよ。お前だよお前。なんて名前だ?」


 やはり大魔法士には誤魔化しなんて効きそうにない。僕は彼を味方につけるべくあっさり白状した。


「日暮光里と申します」


「ヒカリか、いい名前だな」


「ありがとうございます。ところでこれからのご相談ですが」


「決めた。お前俺の弟子になれ」


「ええっ?!どうして?」


 それになんで弟子?いざという時助けてもらうためにヒロインより先に好感度上げなきゃいけなかったのに!……いや待てよ?好感度ってゲームだと恋愛だけどこの世界なら師弟愛とか友情とかもあるのかな?


 アルフレッドは面白いものを見るような顔で僕を見てる。


「……なに悩んでるんだ?見たところ急ぎ師匠が必要だと思うが」


「ぐっ……」


 僕は部屋を見渡した。確かにまずは魔法を使えるようにならないと進級すらできない。


「……お願いします」


 僕の返事にアルフレッドは満足そうに極上の笑みで答える。

 うわあ。さすがメインヒーローの一人だ。

 かっこいい~!


「じゃあこれはサービスな」


 アルフレッドが腕を一振りすると焼け焦げた部屋が一瞬で元通りになった。そして床に散らばる灰になった紙切れを手のひらに乗せてふっと息を吹きかける。


「わあ!復元された!?」


「これが必要だったんだろ?」


 僕の手に落とされたのはキラキラ光る小さなノート。

 僕はそれをしっかりと抱いてアルフレッドを見上げた。


「ありがとうございます!」


 見た目は怖いけどいい人だ。


「そんなに必死になってそんなものが欲しかったのか?」


 アルフレッドは僕の手元を見つめて聞いた。


「はい。この体に生まれ変わったからには彼女の考えていることを少しでも知りたかったんです」


「ふうん。それでそのアメジストの跡を継いで悪役になんの?」


「……どうしてそこまで……」


 まさかこの人も転生者?!


「違うわ。触ればわかんだよ。お前もそのノートの中身もな」


 心読まれた!

 今後一切この人の前で余計なことを考えられないな……。僕は怯えながらも手元のノートを開いてそっと中身を見た。

薄めのノートに書いてあるのは最初の一ページのみ。どうやら日記らしいその内容に僕は一旦そのノートを閉じる。


「ためらうな!お前はちょっとお人好し過ぎるな?!」


「ひいっ怒らないでください」


僕は頭を押さえてうずくまる。


「日記でも何でも今のお前はアメジストだ。それを読む権利はある。俺が許すから読め!」


「は、はい!」


アルフレッドの許可がいるんだろうか?そう思わなくもないけど取り敢えず最初のページに視線を落とす。

それは確かにアメジストが書いたのだろう、両親が亡くなったあと自分が実は男だったと知らされたこと、それにどれだけ衝撃を受けたかなどが切々と書き記してあった。

 そしてチャーリー王子への切ない恋心と自分が男と分かった以上、チャーリーと結婚はできないと言うようなことも。

 皇室が求めるのはあくまで公爵家の令嬢。それは完全な政略結婚のはずだったのに……


「本当に好きになっちゃったんだね」


 だからジスはわざとチャーリーに嫌われるように悪役令嬢になろうとしたのか。


「……おい、ヒカリ。泣くな」


ハッ!


「な、泣いてません」


アルフレッドには何も隠せない。分かっていたが僕は慌てて目尻を拭った。


「はぁ……それでお前はどうするんだ?」


「えっと……アメジストの気持ちが分かったからには明日から悪役令嬢としての生活を頑張ります」


「……それで最後はチャーリーに婚約破棄されて処刑されんのか?」


「!!!どこまで人の記憶読んでるんですか?!」


「仕方ないだろ。お前の正体が分かんなかったんだから。これでも俺結構命狙われてんだよ。警戒すんのは当然だろ」


……そうか。大魔法士様も大変なんだな。


「ヒロインが現れたら身を引いて学校辞めて領地に戻ります。そしてそこでみんなと一緒に仲良く死ぬまで暮らします。断罪の理由はヒロインの毒殺なんだからそれなら安心ですよね?」


「……さあ。どうかな」


「何か不安要素でも?」


「あるとしたらお前が悪役令嬢になれるかどうかだな」


「あっそれは大丈夫です。前世で意地悪な人がいたんでその人をお手本にします」


「まあお手並み拝見だな。取り敢えずお前は弟子として俺と一緒に行動することも多くなるから見ててやるよ」


「はい。ふつつか者ですがどうぞお願いします」


「ダメだ」


「えっ?!」


自分で言ったくせに何で断られるの?!


「まず今の返事は『いいわよ。せいぜい私の周りをハエのように飛んでなさい。でも邪魔をしたら承知しないわよ』だ」


「……悪役令嬢すごい」


「まあ少しずつ慣れていけ」


「ありがとうございます!師匠!」


あれ?何の師匠だったっけ。


「じゃあ明日の朝迎えに来るから」


「え?何のために……」


 最後まで言わせても貰えず、アルフレッドは目の前で消えてしまう。


「……魔法すご……」


 弟子になればあんな風に色々なことが出来るようになるのかな。僕は悪役令嬢のお芝居のことなんて綺麗に忘れて、ただ純粋に明日からの学園生活にワクワクと胸を躍らせた。





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