僕は立ち上がって手を伸ばした。
……無論届くわけもない。
「まさかアメジストってこんなに背が高かったのかな」
そんなわけないか。だってこれはアメジストの体なんだから。
……ということは?
「魔法だ!」
そうだ、そうに違いない。
だって天蓋まではベッドに乗っても三メートル近くある。どんなに頑張っても届くはずがない。
……けど魔法ってどうやって使うんだろう。
ああ、せめてエイダやエルモアに彼女たちの部屋の場所を聞いておけばよかった。そしたら聞きに行けたのに!今部屋の外に出たって遭難するのがオチだもんね……。
「そうだ!テキスト!」
僕は急いで机に戻り、魔法学のテキストを開く。
そして目次を見て高いところの物を取る魔法を探した。
「これかな?『離れた場所にある物に当てる魔法。~高い木の枝に実る果実を手に入れてみよう!実践編』」
だが、そこに書かれていた呪文を唱えてみるが何も起こらない。
何度も何度もやってみるがまるでダメだ。
「おかしいな。アメジストは成績優秀だったはず」
読むだけじゃダメなんだろうか。杖みたいな物あるかな。
急いでクローゼットをガサガサと探るとそこにお目当てのものを見つけた。
「あったよ!いかにもな杖が!」
某魔法使いの映画に出てきたのとそっくりな立派な杖。それにしてもなんでこんな奥に突っ込んであったのかな?
僕は杖に神経を集中してもう一度ゆっくりと呪文を唱えた。そして杖の先を天蓋の隅に向けて思い切り振る。
「えいっ!!!」
ドカン!!!
「え!?」
突如上がった火柱はお目当ての場所に見事にヒットした。
だが勢いが強過ぎて天蓋の一部を破壊した上にメラメラと炎を上げて燃え始める。
「あああ!どうしよう!火事だ!」
火はあっという間に天蓋から伸びる布を焼きベッドマットまで辿り着く。
消せるような代物ではなく僕は震えながらただ、その様子を見ていた。
どうしよう!?どうしたらいいの?!
火はどんどん広がって絨毯を舐め、そのうち煙で前が見えなくなってきた。
「誰かーー!!助けてーー!!」
ドカンッ!!!
力の限り叫んだ途端、大きな音がしてドアが蹴破られるのが見えた。
「助けてください!!!」
僕は煙の向こうの相手に必死でお願いをした。
「まったく、なにやってんだ」
呆れた声と共に部屋中に細かい水の粒が充満する。
するとあっという間に火は消え去り、目の前に現れたのは黒ずくめの一人の男。
「焼け死にたいのか」
「……す、すいません」
彼は真っ黒な髪に真っ黒な目、そして全身真っ黒な服に沢山のごついアクセサリーをつけて恐ろしい目つきで僕を見ていた。
「あ……悪魔の方ですか?」
「は?」
「違った?!ごめんなさい!!」
僕は頭を抱えてうずくまる。
悪いことをしたから迎えに来たのかと思った。
「悪魔じゃない。神様だ」
「かっ、神様??」
僕死んだの??
「寮では魔法は禁止だ。入学式で言われただろう」
「すいません……記憶がなくて……」
神様に怒られた。もうこのまま地獄行き決定だ……。
「記憶がない?」
怪訝な顔をして僕に近づいてくるその男は、被っていたフードをパサリと取って、たくさん指輪を付けた手を伸ばし、僕の顎を掴んだ。
恐ろしすぎて僕は必死に顔を背ける。
「……面白い。お前誰だ?どうして違う器に入ってる?」
「!!」
……バレた?!こんなに早く!
言い訳をしようと視線を戻した僕は彼の顔を見てあまりの衝撃に愕然とした。
……黒薔薇の大魔法士!アルフレッド!!
どうして貴方がここにいるの?!