「私はエイダよ!エイダ・フォン・モンクレール。侯爵家の長女なの。エルモアと同じでパーティであなたと知り合って意気投合したのよ。あなたの優しくて可憐なのに気が強いとこ最高に好きなの。改めてよろしくね」
「ええ!こちらこそよろしく!」
良かった。
こんな仲のいい友達が二人もいたんだ。
……それなのにどうして濡れ衣を着せられて孤独に断罪されてしまったんだろう……。それにこの二人は確かゲームにはいなかったように思う。
「分からないことは全部聞いて。何でも助ける。……でも安心したわ。様子がおかしかったのは記憶のほとんどを失ったせいだったのね。……ところで入学式での記憶はあるのよね?」
「……実はそれも」
「ああ、あの時からだったの。納得したわ。そうよねだって貴女らしくなかったもの」
「私らしくなかった?私、何かしたの?」
エイダとエルモアは苦笑いをしながら目配せしていた。
怖い。ジスは何をしたんだろう??
「……そうね、人が変わったというか突然高飛車になって周りの人に喧嘩売ってたわね」
「ぶつかってきた男の子を突き飛ばして土下座させたりね……」
「ああ、入学式の夜女の子たちみんなで集まっておしゃべりしてたんだけど、初めて会ったノーマって子に魔法で水をかけてたわ」
…………な、なんて?
アメジストが悪役令嬢になったのは学園の入学式からだったのか。
「そのノーマって子は……」
「さっきジスが声をかけた黒髪の子がそうよ」
「……謝っときます」
「そうね、その方がいいわ。そんな感じだったから今日会うのが少し不安だったんだけど。そこまで深刻な理由があったなんてね」
エルモアが優しく僕の肩を叩いた。
「なんなら前より面白くなって私はさらに好きになったわよ?」
エイダは面白そうに僕の頬を撫でる。
やめてー!そんな接触慣れてないんだよー!
そんな心の声は届くはずもない。
エイダにいいようにおもちゃにされながら僕は気を逸らそうと今の状況を考えていた。
……今まで優しくていい子だったアメジストが急にそんな意地悪になるなんて考えられない。なにか特別な理由があったんじゃないだろうか。
「そう言えば休み中に殿下には会った?」
「え?誰に?」
「誰にじゃないわよ。貴方の婚約者のチャーリー殿下よ」
「ああ、会ってないけど……」
「手紙は?」
「送ってない。……どうして?」
「ああ……まったく」
二人はため息をついて顔を見合わせた。
え?どうしてそんな顔するの?
「だめよ。ちゃんと話をしないと。入学式の日に一番酷い態度を取られたのはチャーリー殿下なんだからね」
「えっ?そうなの?」
「……本当に記憶がないのね……」
まずい!断罪回避のために仲良くしないといけない相手なのに!
……ムカつくけど。
「因みにどんなことをしたのかな……」
「そうね、パートナーと参加する集まりの話で別の男子生徒にお願いするわって発言したり」
「それにもう飽きたから婚約解消したいとか。昔からあんなに好きだって言ってたのに」
……思ったより直球だな。
「明日から授業が始まるから昼休みはランチを一緒に取るといいわ。そこで誤解を解きなさいね」
「そうそう。ちゃんと話すのよ?あの時はショックで正気じゃなかったって。そしてその辺りの記憶がないこともね」
「……ありがとうそうするわ……」
アメジストにとって憎い仇でも婚約解消するのは今じゃない。それはもう少し慎重に穏便に進めないといけないのだ。例えばヒロインが現れたと同時に身を引くとか。
様々な情報をもらって複雑な気持ちを抱きながら僕は部屋に戻った。
アメジストの豹変の原因を探るために何か手がかりがないかと机や本棚を探る。
……落書きでもいいメモでもいい。
突然周りへの態度を変えたアメジストの気持ちが分かるものがあれば……。
けれどきちんと整理整頓された彼女の持ち物にそれらしき物は何もなく。
「そうだ!本人に聞いてみればいいんだ」
そう思いつき、僕は鏡に映るアメジストに向かって語りかけることにした。
「明日には王子と会って話をしないといけないんだ。ごめんなさいって言って仲直りでいいの?それとも引き続き冷たくしなきゃいけないの?何か理由があったんでしょ?」
……だが返事など返ってくるはずもない。
「あーどうしよー」
僕は柔らかいベッドの上に身を投げ出して天蓋を見上げた。
「……ん?」
あれなんだろう……。
よく見るとほんの僅かだが、天蓋の端がキラキラしているのだ。
「まさかあそこに何かあるの?」