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第9話 二人の友達


「ジス!」


「はい?」


名前を呼ばれ振り向くと、銀髪の美少女と赤い髪のボーイッシュな女の子がこちらに向かって手を振っていた。

今度こそ友達かな?よし!食堂に案内してもらおう。

僕は急いでその子達の方へ駆け寄る。


「久しぶり。元気だった?」


「ええ……えーっとあなた達はどうだった?」


名前が分からないのは困るな。


「まあ普通よ。……それよりずっと気になってたの。公爵ご夫妻があんなことになってからずっと会えてなかったから……」


「そうよ。ジスが元気かどうかも知る術がなかったわ……」


ああ、両親が亡くなったことか。


「お気遣いありがとう。しばらくは寂しいと思うけど大丈夫よ」


僕はアメジストのように上品さを忘れず憂いを含んだ顔で微笑んで見せる。


「可哀想に……。寂しい時は言って?いつでも部屋に遊びに行くから」


「ありがとう……。ショックが大きくて少し記憶が曖昧な部分があるの。しばらく頼りにしてしまうけどいいかしら」


目の前の二人は顔を見合わせて「もちろん!」と声を揃えた。


よし、これでご飯が食べられるし授業も受けられそうだ。




二人に連れられて行った食堂は大聖堂のような荘厳さで、食堂と呼ぶのが失礼なくらい広くて美しい場所だった。

大きな白いテーブルがいくつも並べられていて、カウンターで好きなものを注文するスタイルだ。


「今日は何にしようかしら。エイダは?」


「私は少しドレスがキツくなったからサラダでいいわ。エルモアはしっかり食べて」


銀髪の方がエイダ、赤髪がエルモアと言うらしい。……二人はとても親切に僕の世話を焼いてくれる。入学式で仲良くなったんだろうか?


「ジスの好きなアサイーがあるわよ」


「だめよエルモア、ジスはもう少し太るべきよ」


「じゃあお肉かしらね」


お肉……慣れない環境に忘れていたけど僕はとてもお腹が空いていた。


「お肉がいいです!……じゃない。いいわ」


「そう?じゃあカウンターに行きましょ」


ワクワクしながら向かった注文カウンターには所狭しと美味しそうな料理がたくさん並んでいた。

それぞれにプレートが立てられてメニュー名が書いてある。


グリフォンのグリル?香ばしくていい匂い!ブラッドベリーパイに霧の森のキノコのスープ?すごい!テレビでも見たことない!


「……うわぁ全部食べたい」


涎を垂らさんばかりに思わずそう呟くと、エイダとエルモアが同時に振り返ってじっと僕の顔を見た。


「なんて言ったの?ジス」


「空耳じゃなければ全部食べたいって聞こえたのだけれど」


「あ、いやその……」


しまった、正体がばれた?!アメジスト公爵令嬢はそんなこと言わない。僕の背中に冷や汗が流れた。


「分かったわ!全部ね?」


「任せて!」


「えっ??」


けれど二人は使用人を呼び目をキラキラさせながら「ここからここまで全部、あそこのテーブルまで持ってきて」と頼んでいる。


「えええっ?!」


驚く僕を尻目に、二人の指示でテーブルの上は様々な料理で埋め尽くされた。


「悲しい時は食べるの。パーティはまだ先なんだから少しくらい太ってもいいのよ。入学式の時のあなた、痩せ細って枯れ木のようだったもの」


「そうよ、食べられる時に食べなきゃ。美味しいって気持ちは人を元気にするんだから」


「……ありがとう!」


なんで優しい人たち!

実際料理はどれも美味しそうだったし、二人の友情を断る理由もない。


僕はマナーに気を付けながらも片っ端から料理を堪能した。







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