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第6話 光と共に

「……違う。少な過ぎる!一日五千でも少ないと思ったのに!」


「え?」


キティさんは声も野太くてもうキティ要素はゼロだ。


「でも使うところがないので……」


「まあドレスやアクセサリーはツケで買えるが……友達と街へ出て急に新しい馬車が欲しくなったりしたらどうするんだ?」


「……?」


急に?馬車が??欲しくなる???


「それに気に入ったブティックでもあれば店ごと買っておきたいだろう?その時に手付金もないようだと困るじゃないか。呼ばれていつでも行けるほど私も暇じゃないんだから」


「あの……そんな心配はありませんから」


「なんだと?」


「ご飯が食べられて……あ、毎日三食じゃなくてもいいです。お布団があって勉強に必要なテキストやノートがあれば何もいりません」


「ヒカリ……」


キティさんは驚愕の目で僕を見ている。

変なこと言ったかな。


「……すまなかった」


「何がですか?」


「出会い頭に冷たい態度をとった」


「え?別に冷たくなかったですよ」


あれで冷たかったら病院の先生や看護師たちは業務用クーラーだ。……退屈だろうって乙女ゲームやラノベをくれた優しい人たちもいたけどそんな人はすぐ辞めちゃうんだ……。


「悪かった。以前来た者があまりに贅沢でつい警戒した。油断したら公爵家を食い潰すくらいに散財したんだ」


公爵家を食い潰す?!


「あ、あの……」


「なんだ?」


「僕、すごく沢山ご飯を食べるんですけど……すごく美味しいから……ごめんなさい。食い潰さないようにこれからは少しにします……」


大丈夫、我慢できる。だって前世ではお粥やスープしか食べてなかったんだから。

……あの美味しいご飯を食べられなくなるのはちょっと……いやすごく悲しいけど……。


勝手に涙がぽろぽと溢れる。それをみてギョッとしたキティさんが慌てて僕にハンカチを渡してくれた。


「食べていい!食べていいんだ!食い潰すというのはそういう意味じゃない!よく食べるのはいいことだぞ!今度美味い肉を沢山持ってくるから泣き止んでくれ!」


……お肉?


僕の涙はすっと止まる。


熊……いやキティさんが持ってきてくれるお肉ならさぞや美味しいに違いない(偏見)


それにキティさんは見た目は怖いけどすごく優しい人なんだな。

困った顔で焦る彼が気の毒で、僕は急いで涙を拭いて頷いた。






     ーーーーーーーーーー


応接室にはキティとハンナ、それにヘンリー医師が集まり、簡単なつまみと共に酒を嗜んでいる。


晩御飯も済み、疲れたのかヒカリは早々に寝てしまった。

毎日大変な量の勉強や礼儀作法を教え込まれているので無理もない。だが彼は一度たりとも弱音を吐いたことは無かった。


「おい、あれはなんだ」


キティが酒を一口飲んでからうめくように言った。


「なんだとは?」


「あの新しく来た子だよ。ヒカリのことだ。今までの女の子たちと全然違うじゃないか」


「……そうだな」


ヘンリーはポツリと呟く。


「正直もう期待はしてなかったもんな。それくらい今までの子は酷かった。わがまま放題だったり、権力をかさにきて横暴だったり」


「そうでしたわね。でもアメジスト様がもう未来を変える気を失ってしまった今となっては……」


「そうだ。やってくる異邦人達にかけるしかなかったからな」


「あの子は本当にいい子よ。前世はとても酷い目にあってたようだけど。明るくて素直で可愛いの」


「……彼は酷い目に遭ったなんて思ってないだろ。不当な扱いを当然だと思って生きてきたんだ。だから簡単に自分の命を投げ出しそうで怖い」


「それはないと思うの」


ハンナが甘いフルーツの入ったワインを一口飲んだ。


「だってアメジスト様のこととても大切に思ってくれてるのよ。そのアメジスト様の中に入ってるんだから滅多なことはしないわ」


アメジスト本人でさえ大切に扱えない体と命を、ヒカリはとても大事にしてくれる。


「ここに戻ってくるたびに、ジス様は自分の意識を取り戻す。そしてその度にあの池に身を投げるのよ。どんなに気を付けて側にいても止められない。もうこれ以上ジス様のあんな姿は見たくないわ」


時間が巻き戻るたびに泣き叫び殺してくれと懇願するアメジスト。

たぶん今も彼女は深い深い場所でヒカリと共にいる。

そして何度も繰り返される断罪劇に怯えてもうやめてくれと泣いているのだ。



「ヒカリなら変えてくれそうな気がする」


ヘンリーの言葉に二人は示し合わせたように頷いた。そしてグラスを掲げ、「ヒカリが共に在らんことを」と声を上げて神に祈り、手にした酒を一気に煽った。













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