「アメジスト様!素晴らしいです。この短期間にここまで習得されるなんて!」
「本当ですか?嬉しいです」
「私も嬉しいですよ!教えた甲斐がありますから」
「ありがとうございます!」
座学の先生に褒められた!
最初は厳しくて大変だったけど頑張ってよかった。
嬉しくて自然に口角が上がってしまう。
元々新しいことを知るのは大好きだ。
前世でも一応勉強はさせて貰えたけどそれも義務教育までだった。
今日で勉強は最後ですって言われた時は本当に悲しくて夜一人で泣いちゃったんだよな……。
それから僕の先生はテレビだけになったので会話もなくなり一方通行の知識だけが増えていったのだ。
先生たちは外から来てるので最初は公爵令嬢の僕が何故今更こんなことをするのか分からず困惑していた。
でも一生懸命勉強してるうちにすっかり打ち解けて仲良くなれたのはとても嬉しい。
「来週からの学校生活が楽しみですね」
学校生活!
そうか、いよいよ僕は人生初の学校に通えるんだ。
夕ご飯は僕の大好きなグラタンだった。
えびがたくさん入っててすごく美味しい奴。
危うくお腹いっぱい以上食べそうになって慌ててスプーンを置いた。
だからデザートのシュークリームが食べられなくて少し落ち込んでいたんだけど……。
ハンナがそんな僕に腹ごなしと言って庭園の散歩を提案してくれた。
少しお腹が空けば食べていいらしい。
なるべく早くお腹に隙間が出来るように僕は早足で歩いた。
「……ヒカリ様、お困りのことはないですか?」
少し後ろからハンナの声がした。
一緒に歩こうと言ったのにちょっと早すぎたかもしれない。
僕は急いでハンナの所まで戻り、横に並んで歩調を合わせた。
「どうして?何もないよすごく楽しい」
むしろ順風満帆過ぎて怖いくらいだ。
断罪を回避するまでの三年間だけとはいえ、せっかくだから楽しく過ごしたいと思ってる。
「それはようございました。アメジスト様の楽しそうな顔を見られて私たちもとても幸せです」
それが本当だと証明するようにハンナは嬉しそうに笑って見せた。
アメジストは心を壊してしまった。
ハンナはそう言っていた。
大切な人がそんな風になるのはどれほど辛いことだろう。
僕はみんなのためにこれからもたくさん笑ってたくさん幸せになろうと思った。
「そういえば明日管財人のキティ様が来られます」
「キティ?!」
「覚えておられるのですか?まさかジス様の記憶が……」
「いえ、あの……キティって頭に赤いリボンをつけて服を着た白い猫で、どんなコラボにも応じる懐の深い……?」
「え?」
ハンナが目を丸くしてる。
「猫?キティ様は人間ですよ?」
「ですよね~」
……良かった。実写版の仕事までやり始めたのかと思った。
「学園で必要なお金の話をしに来られます。学費や諸経費はこちらで対応しますがお小遣いが必要ですからね」
「お小遣い……」
自慢じゃないが僕はお金に触ったことがない。
病室に閉じ込められていたのでそんな必要もなかったからだけど……。
大丈夫かな……?
……いやむしろ前世のお金を知らないからこそ今世は先入観なしにスルッと覚えられるのでは??
僕は前向きに考えることにした。
「……分からないことはキティさんに聞くよ」
「そうなさってください。キティ様は私たちと同じでヒカリ様のことをご存知ですから」
「よかった。それは相談しやすいです」
助かった。
……しかしアメジストに巻き込まれた転生者?過去戻り者?……回帰者でいいや。それが思ったより沢山いて驚く。
うまくいったらみんなで大宴会を開かないと。
楽しいだろうな。みんなで同じテーブルに着いて食事しながらわいわいおしゃべりするんだ。
そう考えて、上手くいった時にはもう自分はこの場所にいないのだと気付いた。
……まあいいや。僕の役目はアメジストを幸せにすることだもん。
「……ヒカリ様、そろそろシュークリームがお腹に入るのではないですか?」
「あっ、うん。食べられそう」
急いで公爵邸まで戻った僕は、メイドの入れてくれた美味しいお茶と共にクリームたっぷりのシュークリームを堪能した。
翌日、キティさんが僕に会いに来てくれた。
なんて言うか……キティというよりツキノワグマ?
縦にも横にもすごく大きくて、顔が分からないくらい沢山髭が生えていた。
「きみがヒカリか」
「はい!よろしくお願いします」
「じゃあ早速予算の内訳を決めよう」
挨拶もそこそこに紙の束を机にドン!と置いてペンで何かを書き始める。
ツキノワグマさんはおしゃべりが嫌いみたいだ。
「小遣いはどのくらい欲しい?」
「えっと……」
「今まで転生して来た者たちからの情報だと金の価値としては前世とほぼ同じくらいだ」
「うーん……」
ゲームの中では寮でご飯が食べられて特にお金がかかるような場所はなかったはず。あ、確かヒロインが購買?とやらで第七王子に綺麗なペンを買ってもらってたな。
あの値段が確か……
「じゃあ五千くらい?」
「一日にか?」
キティさんがジロリと僕を見る。
「いえ、卒業までの三年間で」
「……は?」
ペンは千円くらいだった。
もし壊れても五千あれば五回は買える計算だ。
うん、それで十分。
「ヒカリ!」
「ひっ!」
間違えた?多かった?贅沢な奴だと怒られる?!
「ご、ごめんなさいその半分でいいです!」
ペンは壊れたとしても直して使えばいいんだから。
僕は慌てて言い直した。