同日、夜。
「大学生って土曜日も講義あるんですね」
優海の隣を歩いていた柊也が、「大変そうだなぁ」と苦笑する。
柊也は高校生になったばかりでまだ進路は決めていないが、もし自分も大学に行ったらこんな感じになるのか、などと考えたのだ。
そんな柊也に向けて優海は、
「今日はたまたまなんです。いつもはもっと暇なんですよ」
両手を振りながらそう答え、可愛らしく目を細めた。
優海が言った通り、今日はいつもより忙しかったらしい。
大学の講義に、その後はアルバイト。優海が行く先々に、柊也は継と一緒について行った。
(一日、ただ優海さんを追っかけてただけだったからな。まあ何もない方がいいんだけど)
柊也は気づかれないよう、そっと優海の様子を
昼間の優海は時折不安そうな表情を見せたりもしたが、今はすぐ
(今のとこは大丈夫そうだな、うん)
柊也は安心しながら一人頷き、次にはその顔を空へと向けた。
(けど、これからどうなるか……)
視線の先には、昨日妖魔が逃げた後と同じ、星の瞬く夜空が広がっている。
もちろん、妖魔に会わない方がいいに決まっている。このまま何も起きずに終わってくれるとありがたい、と柊也は思った。
だが、妖魔とは基本的に夜になってから活動するものなのだ。
昼間はそれほど気を張らずに警護ができていたが、日が暮れてしまうとそうもいかなくなってくる。
柊也はどことなく落ち着かない気持ちを静めようと、大きく深呼吸をした。
※※※
少しして。
「優海さん、体調の方はどう?」
柊也たちの数歩ほど後ろを歩いていた継が、優海に声を掛ける。
優海はすぐさま振り返ると、継に柔らかな笑みを向けた。
「そうですね、今日はいつもより調子が良い気がします」
「それならいいんだけど」
優海の言葉に、継も口元を緩める。
継は警護中に、優海の不調の原因はやはり昨日の妖魔のせいだと結論付け、柊也も同意していた。
今、優海が発した言葉によって、それは裏付けられている。
調子が良いということは、現在妖魔の影響を受けていないと考えられた。
(妖魔に
別に継の教えを信じていなかったわけではないが、柊也は実際に優海の状況を目の当たりにして、ようやく納得したのである。
事務所で優海の話を聞いた時に、継は何となくではあったが、妖魔が関係しているのは間違いないだろうと睨んだそうだ。
だが、柊也にはあえて言わなかった。
『これも勉強だから自分で気づけ』ということだったらしい。
先ほど、優海がアルバイトをしていた時である。そのことで柊也は継から厳しい目を向けられた。
「何となく顔色が悪かったから、おかしいとは思った」
そう柊也が答えれば、継は途端にそれまでの硬かった表情を崩し、
「さすが僕の助手だね」
と心底嬉しそうに、今度は柊也の頭をぐりぐりと撫でまわした。
「別に助手じゃねーし、頭撫でんな!」
柊也は助手扱いと頭を撫でられるのを必死に拒否したが、それでも継が認めてくれたことには、ほんの少し心の中がくすぐったくなったのである。