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第10話 束の間の休息

 同日、夜。


「大学生って土曜日も講義あるんですね」


 優海の隣を歩いていた柊也が、「大変そうだなぁ」と苦笑する。


 柊也は高校生になったばかりでまだ進路は決めていないが、もし自分も大学に行ったらこんな感じになるのか、などと考えたのだ。


 そんな柊也に向けて優海は、


「今日はたまたまなんです。いつもはもっと暇なんですよ」


 両手を振りながらそう答え、可愛らしく目を細めた。


 優海が言った通り、今日はいつもより忙しかったらしい。


 大学の講義に、その後はアルバイト。優海が行く先々に、柊也は継と一緒について行った。はたから見ればストーカーのようだったかもしれない。


(一日、ただ優海さんを追っかけてただけだったからな。まあ何もない方がいいんだけど)


 柊也は気づかれないよう、そっと優海の様子をうかがう。


 昼間の優海は時折不安そうな表情を見せたりもしたが、今はすぐそばに継と柊也がついているからなのか、少しは落ち着いているようだ。


(今のとこは大丈夫そうだな、うん)


 柊也は安心しながら一人頷き、次にはその顔を空へと向けた。


(けど、これからどうなるか……)


 視線の先には、昨日妖魔が逃げた後と同じ、星の瞬く夜空が広がっている。


 もちろん、妖魔に会わない方がいいに決まっている。このまま何も起きずに終わってくれるとありがたい、と柊也は思った。


 だが、妖魔とは基本的に夜になってから活動するものなのだ。

 昼間はそれほど気を張らずに警護ができていたが、日が暮れてしまうとそうもいかなくなってくる。


 柊也はどことなく落ち着かない気持ちを静めようと、大きく深呼吸をした。



  ※※※



 少しして。


「優海さん、体調の方はどう?」


 柊也たちの数歩ほど後ろを歩いていた継が、優海に声を掛ける。

 優海はすぐさま振り返ると、継に柔らかな笑みを向けた。


「そうですね、今日はいつもより調子が良い気がします」

「それならいいんだけど」


 優海の言葉に、継も口元を緩める。


 継は警護中に、優海の不調の原因はやはり昨日の妖魔のせいだと結論付け、柊也も同意していた。

 今、優海が発した言葉によって、それは裏付けられている。


 調子が良いということは、現在妖魔の影響を受けていないと考えられた。


(妖魔にかれると体調を崩したりすることがあるって教わってはいたけど、ホントだったんだな)


 別に継の教えを信じていなかったわけではないが、柊也は実際に優海の状況を目の当たりにして、ようやく納得したのである。


 事務所で優海の話を聞いた時に、継は何となくではあったが、妖魔が関係しているのは間違いないだろうと睨んだそうだ。


 だが、柊也にはあえて言わなかった。

『これも勉強だから自分で気づけ』ということだったらしい。


 先ほど、優海がアルバイトをしていた時である。そのことで柊也は継から厳しい目を向けられた。


「何となく顔色が悪かったから、おかしいとは思った」


 そう柊也が答えれば、継は途端にそれまでの硬かった表情を崩し、


「さすが僕の助手だね」


 と心底嬉しそうに、今度は柊也の頭をぐりぐりと撫でまわした。


「別に助手じゃねーし、頭撫でんな!」


 柊也は助手扱いと頭を撫でられるのを必死に拒否したが、それでも継が認めてくれたことには、ほんの少し心の中がくすぐったくなったのである。



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