テーブルを挟んだ向こう側のソファー。
そこには、どことなく居心地が悪そうに、小さくなって座る女性がいる。
喧嘩の邪魔をしてしまったことを、きっと少なからず申し訳なく思っているのだろう。
「先ほどはお見苦しいところをお見せして、大変失礼しました……」
そんな女性に、コーヒーと
喧嘩については、柊也としてはむしろ止めてくれてよかったと思っている。
でなければ、どちらも引くことなく、今もまだ続いていたかもしれないのだから。
「い、いえ、私がタイミング悪く来てしまっただけですから」
気にしないでください、と落ち着いた声で、女性も同じように頭を下げた。
柊也の同級生の女子よりも少し大人っぽい雰囲気を
ただ、夕方で疲れているのか、顔色が悪いように見えるのが少し気になった。
「それで、今回のご依頼は?」
先ほどまでの様子がまるで嘘だったかのように、継が真面目な顔を女性に向ける。
継に促された女性は、ゆっくり口を開いた。
「あ、はい。私は
そうはっきりと告げた優海は、目の前に置かれたボールペンを手に取る。
そして継が差し出した書類に、自分の名前を綺麗に整った文字で
「『優しい海』……ですか。素敵なお名前ですね」
書き終えた優海の手を、継はそっと両手で包み込むように握る。
まっすぐに微笑みを向けられた優海は、恥ずかしそうにうつむき、どうしていいかわからないようだ。
(いきなりセクハラしてんじゃねーよ!)
そんな継の行動をしっかり見ていた柊也は、優海を助ける意味も込めて、即座に隣から
しかし、継はそれを受けても笑顔を崩すことなく、話を進めようとする。
(ちっとも効いてねぇ……っ!)
少しくらいは痛がれよ、と柊也は心の中だけで舌打ちした。
「調べて欲しいことですか? 浮気調査とか?」
継は聞きながらノートを開き、詳しい内容をメモする準備を始める。
そろそろ真剣に仕事を始めようとする継の様子に、柊也もきちんと話を聞くことにして姿勢を正した。
ようやく継の視線と手から解放された優海は、まだ頬を染めながらも、静かに唇を動かす。
「いえ、そうではなくて……」
「……?」
否定する優海の言葉にやや陰りが見えて、柊也は首を傾げた。
たいていの人間は何かしら困っているからこそ、大なり小なり助けを求めてここにやって来る。
だが、優海の場合はいつもの依頼人とは少し違うように見えたのだ。
継も柊也と同じことを感じ取ったのか、声のトーンを落とすと、今度は違う言葉を口にする。
「もしかして、『裏』の依頼の方でしょうか?」
一瞬、優海の息を呑む音が聞こえた気がした。