「あ~、やっと来た!」
「今からこの街の祭りに行くのだが、キミも一緒に来るか?」
扉の向こうに広がるのは、部屋ではなく、見慣れぬどこかの街並みだ。レンガ造りの建物や石畳の道路が見え、どこからか賑やかな音楽も聴こえてくる。
後ろから誰かが肩を組んできた。
「聞いて驚け。今から行われる祭りはオレとスティルを崇める祭りなんだ。本物の神がそこに紛れているとは知らずに、この街の奴らは盛大に祭りを行う。こんな面白い事他にあると思うか?」
隣でニヤリとディサエルが笑う。
「無い!」
私も釣られてニヤリと笑った。
「よし! じゃあ行くぞ!」
「おー!」
スティルが元気よく拳を上げた。
「くれぐれも騒ぎは起こすなよ。前の世界でキミ達がしでかした事を忘れたとは言わせないからな」
そんな双子にロクドトが釘を刺す。
「何かあったんですか?」
「これがこの世界の人間の望む姿だから、とか言ってディサエルが禍々しい獣の姿になって暴れたのだ……」
思い出すのも嫌なのか、ロクドトは顔をしかめた。
「ああ、それは……大変でしたね」
「大変なんてものじゃない。だが、キミがいればそんな事はしないだろう。安心して楽しみたまえ」
「はい!」
「ほら、行くぞ翠」
「露店全部回るからね」
「はーい! ……あ、ちょっと待って」
双子に付いていく前に、開けた扉を閉めた。こういう時って、勝手に扉が消えたりするのかな。なんて思ったが、消えずにそこに扉はある。
「戻りたい時はこの扉を開ければいいし、その後またどこか別の世界に行きたい時は、向こう側から扉を開ければいい」
「この扉がわたし達がいる場所に繋がるように、魔法を掛けておいたからね」
いつの間にか背後にいた双子がそう言った。
「いつそんな魔法を?」
「オレ達が別れた日だよ。とっくに気づいているかと思ったが、全然来ないんだもんな」
「だって、そんな事気づかなかったし……」
「お前魔法探偵だって言うなら、もっと魔力に注意した方がいいぜ?」
「うん……本当に、そうだね」
やっぱり神には敵わない。
「もう、翠ったら。しょんぼりしてないで、早く行こうよ!」
「オレ達がこの世界を破滅させる、って内容の劇をやるらしいぜ。これは外せないよな」
「……やっぱりこの世界でも変な事言われてるんだ」
「その辺りについては、あまり気にしない方が身のためだぞ」
うんざりした声でロクドトが言う。
「……分かりました」
こっちにいる間、元の世界ではどれだけの時間が経過するのかは知らないが……どうせ依頼人は大して来ないのだ。明日は休みにしても問題ないだろう。何しろ初めての異世界のお祭りだ。楽しまなきゃ損というもの。
「よし、その意気だ翠!」
「今日一日楽しむよー!」
「騒ぎだけは起こすなよ」
「私がさせないので大丈夫です!」
今から疲れるまでは、この異世界で休暇を目一杯楽しもう! この神様達となら、どんな事だって楽しめる。この時の私は知らなかったのだが、ディサエルが魔法で『紫野原魔法探偵事務所 暫くの間休暇中』と書いた看板を事務所の玄関に出していた。
それを知ったのはいつかって?
一週間後の事だ。