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第63話 それから……

 私は屋敷に入り、扉を閉めた。するとすぐ強い魔力の気配がふっと消えるのを感じた。


(もう、返されたのかな)


 恐る恐る閉めたばかりの扉を開ける。見慣れた庭と、夜の景色がそこには広がっていた。あの三人の姿はどこにも見当たらない。


(……)


 扉を閉めて、廊下を歩く。屋敷の中が急にひっそりとした。誰の声も聞こえてこない。何の物音も。最初から私しかいなかったかのように。


(…………)


 どの部屋にも、誰もいない。事務所にも、食堂にも、台所にも、工房や調合室にも。


「ん~」


 ディサエルとスティルが使っていた部屋の前で足を止めた。最初はディサエルが一人でこの部屋を使っていたが、スティルが来てからは二人で使っていた。時々二人の話し声や笑い声が聞こえてきたものだが、今は何も聞こえてこない。何の気配もしない。だから扉を開けたって誰もいないのだが……何となく、開けづらい。


「んあ~……風呂入って寝よ」


 全ての思考を放棄して、お風呂に入ってベッドで寝た。


 それからまた数日が経った。依然として依頼人は来ないが、時々美香が遊びに来る。ディサエルの部屋の扉はまだ開けていない。


「ロクドトさんの部屋は開けたんですよね?」


 遊びに来た美香に問われた。


「うん。掃除しようと思って開けたらビックリするくらい綺麗にしてあって、何しに来たのか忘れちゃったくらいだよ」


 ロクドトが使い始める前よりも綺麗になっていて、度肝を抜かされた。


「ディースくん達の部屋は掃除しないんですか?」


「う~ん、掃除したいんだけどね……不可侵条約結んでたし……」


「何ですかそれ……」


 もうこの世界にいないのだから、互いの部屋に入らないという約束も消えたようなものである。それでもそのままにしておきたいのには、もう一つ理由があった。


「ディサエルたちがまた来た時の為に、そのままにしておきたいな、と思って。埃を取るだけなら、外からでも魔法でなんとかなるから」


「便利ですね~魔法」


「便利だよ~魔法」


 そう言って二人でお茶を飲んだ。


「急に一人になって、寂しくないですか?」


「ううん、全然。元々一人暮らしに憧れてたし、それに美香ちゃんが遊びに来るしね。まぁ、毎日ディサエルの美味しい手料理食べてたのが、自分の作るテキトーな料理になった事で胃が寂しさを訴えてくるけど……」


「ディースくんの作る料理もお菓子も、どれも美味しかったですもんね~」


「ね~」


 そんな会話を二人でした。


 美香が帰ってから、私は階段を上り、またディサエルの部屋の前までやってきた。


(別に寂しい訳じゃないけど……)


 たまに、会いたくなる。そんな時、この扉を開ければそこにいるのではないか、と思う事もある。会って、くだらない話をしたい。私の知らない世界の話を聞きたい。


(……)


 双子から貰った指輪は、鎖を通していつも首に下げている。この指輪があの二人だと思うと、それぞれ別の指に嵌めるよりも、こうしておいた方が二人が一緒にいられる気がするのだ。その指輪をぎゅっと掴む。


「……ふぅ」


 扉の向こうにいてほしいなら、そう願えばいい。だがそれは私のエゴではないか? 二人の旅路の邪魔をしているのではないか? そんな思考が邪魔をして、開けられずにいるのだ。


 でも……。


(ちょっとくらい、いいよね?)


 相手だって自分勝手な神様なんだ。その使徒だって、ちょっとくらい自分勝手に願い事をしても許されるだろう。


 ドアノブに手を掛け、ゆっくりと回し、そのまま扉を開けた。

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