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第62話 誕生日パーティー②

 美香が可愛らしくラッピングされた小包を持ってやってきた。


「翠さん。これ、私からの誕生日プレゼントです」


「ありがとう」


 プレゼントを受け取り、中を見てもいいか確認してから袋を開ける。そこには魔法少女サツキのぬいぐるみが……! 買おうかと悩みつつも、別のグッズを買ったから我慢していた品だ。


「これ貰っちゃっていいの⁉」


「もちろんですよ! 翠さんへのプレゼントなんですから!」


「マジでありがとう。大切にするね」


 後でフィギュアの隣に飾っておこう。


 今度はロクドトがやってきた。


「これはワタシからのプレゼントだ」


 そう言って渡してきたのは、小さなガラス瓶に入った緑色の液体。魔法薬なのだろうが、どんな薬だろう。


「これはグステマグラ・グラガーメントと言って、分かりやすく言えば飲んだ者に幸運をもたらす薬だ」


「フェリックス・フェリシスですって⁉」


「いや、グステマグラ・グラガーメントだ。そのフェリックスとは何だ」


「あ、いえ、その、似たような魔法薬に覚えが……と言っても小説の中に出てくるものなんですが。それで、その薬はどんな幸運をもたらしてくれるんですか?」


「飲んだ者が幸運だと思う事なら、どんな幸運でも、だ。だが飲み過ぎには気をつけるのだ。逆に不運が訪れてしまう。この薬は本来銀色の液体なのだが……キミの名前の意味を聞いてね。同じ色にしてもらうようディサエルに頼んだのだ」


「え⁉ そんな事までしてくれたんですか⁉」


 わざわざそんな事をする人だとは思わず、驚いた顔でロクドトを見て、次いでディサエルを見た。ディサエルはニヤリと笑みを返した。


「できる事ならワタシの手で緑色に変えたかったのだが、こればかりは神の力に頼らざるをえなかった。いつか必ずワタシ自ら薬の色を変えられるようになるから、楽しみにしておく事だ」


「あ、はは……。楽しみにしておきます」


 ロクドトは未だに空を飛べるようになる煙幕を作れていない。それもあってかディサエルとの力の差を余計に根に持っているらしい。張り合う必要は無いと思うのだが、きっと負けず嫌いな所があるからここまで上り詰めてきたのだろう。


「それじゃあ最後にわたし達からのプレゼント。翠、手を出して」


「はい」


 美香とロクドトから受け取ったプレゼントを片手で持ち、もう片方の手をスティルに言われた通りに出す。


「これはわたしから」


 と言ってスティルは月の模様をあしらった白色の指輪を、


「これはオレから」


 ディサエルは太陽の模様をあしらった黒色の指輪を私の掌の上に乗せた。


「これはお守りだよ」


「オレ達の魔力が込められてる」


「翠が願えば、わたし達の力がちょっと使えちゃうかも」


「オレ達を呼ぶのにも使えるぜ。助けが欲しい時はすぐ呼んでくれ。もちろんそうじゃない時でも、いつでもいいぜ」


「うん……。二人とも、ありがとう」


 何かの拍子に落とさないように、ポケットの中にしまった。後で鎖でもつけて、ネックレスにでもしよう。


 その後あんまり遅くなるといけないから、と言う美香をディサエルが魔法で自宅まで送り、この素敵な世界での誕生日パーティーはお開きとなった。それは、お別れの時間をも意味していた。


「本当に行っちゃうんだね」


「ああ。世話になったな」


「元気でね、翠。また遊びに来るから」


「この世界の魔法薬学の事を研究し尽せていないからな。ワタシもまたいずれ来るだろう」


「はい。お待ちしてます」


 私だけ屋敷の中に入り、三人は扉の外で立っている。私を屋敷ごと元の世界に戻すためだ。


「それじゃあ翠。扉を閉めたら送り返すからな」


「うん……」


 扉を閉める前に、もう一度じっくりとこの世界の幻想的な景色を目に焼き付けた。


「あ、そうだ。ちょっと待って!」


 このままお別れなのも、この景色を見れなくなるのも、そんなのは寂しすぎる。ああ、何で美香がいる時にこれを思いつかなかったのだろう!


「最後に写真撮らせて!」


 私は慌ててスマートフォンを取り出し、カメラを起動させる。


「皆ここに集まって……ロクドトさんもう少し屈めますか?」


 インカメラで撮りたいのだが、飛びぬけて背の高いロクドトが上手く画面内に収まらない。もう少し下、と何度か言った所で漸く丁度いい収まり具合になった。


「撮りますよー」


 シャッターを押して、撮ったばかりの写真を確認する。画面内には私、ディサエル、スティル、ロクドトの姿と、朝と夜が入り混じった不思議な空が映し出されている。


「良い写真撮れたか?」


 隣からディサエルが覗き込んできた。


「うん。この写真、大切にするね」


「これでいつでもわたし達の事を思い出せるね」


「当分は忘れられないでしょうけどね」


 と言うよりも、一生忘れないだろう。


「カガクギジュツというのも気になるな……」


「その研究の為にも、是非また来てください」


 この人は何にでも興味を持つな。知的探求心の強さは見習いたい。


「皆、本当にありがとう。それじゃあ……」


「絶対また来るからね」


「ワタシもきっと彼女達と共に来るだろう」


「翠、また今度な」


 一生のお別れではないのだ。だから「さようなら」ではなく、別の言葉を贈ろう。


「またね!」

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