突然室内が暗くなり、何故かカーテンも勝手に閉まった。
(停電? ではないよね?)
廊下へと繋がる扉の隙間からは光が漏れている。この部屋の照明だけが落とされたのだろう。
(分かりやすすぎないか⁉)
これが誕生祝いのサプライズであれば、あまりにもベタすぎる。これで皆がハッピーバースデーを歌いながら誕生日ケーキを持って現れたら、私は笑ってしまうに違いない。しかし部屋が暗くなっただけで、他に何か起きる気配が無い。
(流石に自意識過剰すぎたかな……)
やっぱりこの部屋だけ停電したのか。
「んな訳ねえだろ」
「わっ‼」
近くでディサエルの声がして、全く気配を感じなかった私は驚きすぎて声が裏返った。
「あんまりベタすぎる方法だと、すぐ分かっちゃって面白味に欠けるでしょ? だから一捻り加えてみようってなったんだよ」
今度はスティルの声だ。段々暗闇に慣れてきたが、二人の姿は見えない。魔法で声だけ聞こえるのか。
「ご名答。それじゃあオレ達は今どこにいるでしょう」
「台所……だと簡単すぎるよね。ディサエルの部屋? それとも案外この部屋の中にいたりして」
「ねえ翠。わたし達が今どこにいるのか。それを自分の目で確かめてみて」
「はあ……」
探してみて、ではない事に違和感を覚えつつ、魔法で手元に明かりを出して立ち上がり、先ずはこの室内をぐるりと見回す。やっぱり誰もいない。
扉を開けて廊下に出る。食堂、台所……と一部屋ずつ見て回るが、双子はおろか、美香とロクドトの姿も見えない。それは二階も同じ事だった。しかも何故かどの部屋もカーテンが閉められている。
(外……?)
外を見られたくないから閉めたのか? 階段を降りて玄関へ向かい、扉を開ける。
「わ…………ぁ」
そこに広がるのは、朝と夜が入り混じったような、この世のものとは思えない不思議な景色だった。
(何処、ここ)
今出たばかりの建物は確かに私が聡先生から譲り受けた屋敷なのだが、それ以外のものが全く異なっている。庭は私の見知った庭ではないし、見知らぬ綺麗な草花が咲き誇っている。とても幻想的な光景だ。
(もしかして……)
普段ディサエルとスティルが「オレ達」「わたし達」と言う時は自分達双子の事を指しているが、先程言っていた「オレ達」「わたし達」は、この屋敷に住む四人と美香を含めた五人の事を言っていたのではないか? そして今どこにいるかというのは、双子の居場所ではなく、私達が今いるこの世界の事を指している……!
「……ふっ」
一捻り加えてみようだって? 加えすぎだ!
「あははっ」
ああ、やっぱり敵わない。あの神様達には。こんなサプライズが来るなんて、誰が予想できよう。
「あっははははははははっ!」
笑いが堪えられない。屋敷ごと別の世界に移すなんて!
「ディサエルー! スティルさーん! 皆どこー?」
笑いながら屋敷の周りを歩いていると、玄関の反対側、事務所の方の玄関前で皆の姿を見つけた。机が出してあり、その上には豪勢な料理なんかが乗っている。
「何だ。あっちの扉から出てきたのか」
「事務所の方から出ればすぐだったのに」
「そんなの分かんないよ」
笑いながらも文句は言った。
「美香ちゃんも知ってたの? こんな事するって」
「はい……黙っててすみません。でも、凄いですよね、この景色。すっごく綺麗です」
「うん。そうだね」
言葉では言い表せない程、とても素敵な景色だ。
「キミにバレては計画が台無しだからな。彼女にも黙っていてもらったのだ」
命令でもされたのか、ロクドトは以前見た貴族服を着ているのだが、表情だけはこの綺麗な景色に似合わずムスッとしている
「ロクドトさん。こういう時くらい笑いましょうよ」
「……苦手なのだ。笑顔」
さらに眉間に皺まで寄ってしまった。
「無駄話は後にして、言う事があるだろ? ほら」
ディサエルが合図をして、四人が一斉に言った。
「「「「誕生日おめでとう!」」」」
「ありがとう、皆」
こんなにも嬉しい誕生日プレゼントは生まれて初めてだ。感謝してもしきれない。
「おっと、プレゼントはこれだけじゃないぜ。料理も沢山作ったし、ケーキもあるからな」
「他にも色々用意してるからね」
「うん……。ありがとう」
「翠さん何食べますか? 見た事無い料理がいっぱいですよ!」
「うわ、本当だ。迷うな……」
「何でも好きなものを食べるといい。キミの為に作ったのだからな」
「はい。ありがとうございます」
どれも美味しそうで、何から食べるか本当に迷う。
散々迷って、先ずはメインディッシュらしき肉料理から食べ(鶏肉がとても柔らかかった)、サラダ(見た事の無い野菜ばかりだがサッパリしていて美味しい)やその他色々な料理(料理名はもちろんだが主菜なのか副菜なのかも分からないから、こうした表現になるのは許してほしい。どれも絶品だった事は確かだ)もたらふく食べた。デザートのケーキはディサエルお手製、イチゴをふんだんに使ったホールケーキで、これは五等分して皆で食べた。イチゴの甘酸っぱさとクリームの甘さのバランスが丁度良い。
「どうだ、翠。美味しかったか?」
「もっちろん! ディサエルの作る料理が美味しくなかった事ないもん! ……明日からもう食べられなくなるのが、ちょっと寂しいな」
「お前が望めば、いつだって作りに来てやるよ」
「……ありがと」
ディサエルには本当に感謝しかない。強引な所もあるけど、何だかんだ言って優しいこの神様に出会えてよかった。