双子が暫くはゆっくり休んだり、この世界を観光したいから、と言うので、双子がこの世界に飽きるまでは屋敷に置いておく事になった。双子が留まるならロクドトも留まる事になる。彼はこの近くに宿屋はないかと聞いてきたが、スティルが必要な時にすぐ使える場所にいないと嫌だと言って聞かない為、彼も同じくこの屋敷で暮らす事となった。
(一気に騒がしくなったな……)
洋館としては小ぶりであるが、一人で住むには広いこの屋敷に、今は四人いる。気のすむまでいてもいいが、せめて食費だけでもくれと言ったらディサエルは迷惑を掛けたお詫びに、と大金を出してきた。怖くてそんなに受け取れないと断ったが、「大して依頼人が来ないんだから、黙って受け取れ」と言われてぐぅの音も出ず受け取る事となった。暫くの間の三人の生活費分も含まれているらしい。いつまでここに住む気だ。お金の代わりにスティルからは実践的な魔法の使い方を、ロクドトからは魔法薬の作り方をそれぞれ教えてもらう、という取り決めとなった。
ディサエルと美香の依頼を終えて数日が経ったが、ディサエルの言った通り大して依頼人は来ない。来ないのをいい事に、美香も誘って五人で遊びに行ったりもした。異世界組はこの世界に来て初めて目にするものも多いらしく、事あるごとに目を輝かせていた。
この屋敷に越してきた当初は憧れの一人暮らしだ、とワクワクしたものだが、気づけば三人増えている。だが同じ屋根の下に暮らしているとは言え、皆それぞれのプライバシーを尊重し、程よい距離感で接してくれる。何となく一緒に暮らしている。そんな感じだ。気の合う人とであれば、シェアハウスも案外悪くない。
そんな日常に慣れた頃、その日は来た。
「今までありがとな、翠。そろそろ別の世界に行こうと思う」
「神様の仕事も色々あってね、管理してる世界を見て回って、大変な事が起きてないか確認しないといけないんだ」
「そういう訳だから、ワタシも彼女達と共に行く」
「……そう、ですか」
昼食の時にそう聞かされ、今日中には出掛けると言う。
「一生会えなくなる訳じゃないし、時々こっちの世界にも来てやるよ」
「翠を別の世界に連れてってあげないといけないしね」
「……うん」
突然の事ではあるが、遅かれ早かれ別れる時は来るのだ。それがたまたま今日だったというだけで。
(別に、今日じゃなくてもいいのに……)
だが分かってはいても、そう思ってしまう自分がいる。
この頃は交代で食事を作っていて今日の夕飯は私が作る予定だったのだが、オレに任せてお前は事務所にいろ、とディサエルが言うので私は大人しくそれに従った。
案の定誰も依頼人が来ない事務所のソファに座って本を読んでいると、日が傾いてきた頃に美香がやってきた。
「翠さんこんにちは」
「美香ちゃんいらっしゃい」
あれから美香は、週に一、二度程のペースで事務所に遊びに来ている。事務所の手伝いをしたいと言うのだが、依頼人が来ない以上手伝わせる様な事も何も無く、私が美香の勉強を見たり、美香が私や双子から簡単な魔法を教わったりしている。前回来た時は花の色を変える魔法に成功した。
「今日は何する?」
「あ、えっと、今日はディースくん達に、用があるんですけど……どこにいますか?」
何故かしどろもどろに答える美香。今日が今日という日なだけに、どうも怪しい。
「台所にいると思うよ」
怪しみながらも居場所を教えると、美香は「ありがとうございます」と言って台所へと足早に歩いていった。
(絶対何かある)
だって今日は、私の誕生日なのだ。