その後も他愛もない会話をしながら夕食を食べ(ロクドトは結局フォークに持ち替えた)、皆で「ごちそうさまでした」と言う頃にはすっかり日が落ち窓の外は暗くなっていた。
「翠さんごちそうさまでした。肉じゃが美味しかったです。あんまり遅くなると親が心配するので、もう帰りますね」
「どういたしまして。途中まで送っていくよ」
「ありがとうございます」
私は異世界人たちに留守番を頼み、美香を伴って外に出た。
「本当に、色々とありがとうございました。あ、依頼料って、いくら掛かるんですか……?」
不安そうに美香が聞いてきた。高校生なのだから心配するのも無理は無い。そう言えば、お金の事はまだ何も言っていなかったな……。
「一応値段設定は決めてあるんだけど、今回はディサエルの依頼と被ってる部分もあったし、美香ちゃんはまだ高校生だから、今回は依頼料の事は気にしなくていいよ」
「え⁉ でも……」
「それに、さっき見せた杖は私に魔法の使い方を教えてくれた先生から貰ったものなんだけどね、ある日こう言ったの。「その杖をタダであげた代わりに、困っている子供がいたら見返りを求めずに助けてやるんだよ。それがその杖の分の代金だからね」って。だから、美香ちゃんの依頼を無償で受けた事で、私は先生に杖の代金を払った事になるから、これでいいの」
「そうなんですか……。でも、子供限定なんですね」
「うん。お金を持ってる大人からはキッチリとお金を貰え、とも言ってたから」
二人して笑いながら夜道を歩く。
程なくして最寄り駅に着き、そこで美香と別れた。ぶんぶんと手を振りながら「ありがとうございました~!」と言う美香に私も手を振り返し、来た道を戻る。そこへ魔法の使い方を教えてくれたもう一人の先生、桃先生から電話が掛かってきた。
『もしもし、翠ちゃん? 桃です』
「桃先生、こんばんは」
『こんばんは。開業して最初の一週間はどうだった? 依頼人は来たかい?』
魔力が見える、という能力を利用して探偵になるのはどうかと提案してきたのは桃先生だ。だから仕事として成り立っているか心配して、こうして電話を掛けてきたのだろう。
「はい。二人も来ましたし、どちらも昨日解決しました!」
『へえ! それは凄いじゃないかい! おめでとう!』
「ありがとうございます」
自分の事のように喜んでくれる桃先生に褒められるのは、素直に嬉しい。電話だから桃先生に私の表情は伝わらないが、はにかみながら礼を述べた。
『昨日と言えば、聡先生がね、翠ちゃんの住んでいる街で何か魔法絡みの事件があったんじゃないか、ってソワソワしていたんだけど、もしかしてそれと何か関係があったりするのかい?』
「えーっと……もしかして、魔法の障壁に囲まれた教会の事、ですか? それなら関係ありますけど……」
あの教会で起きた事が、昨日の時点で聡先生の耳に入っていたのか? そうだとしたら、耳に入るには早すぎないだろうか。だが聡先生には各地に知り合いがいる。この辺りに住んでいる魔法使いが何か異変を感じ、それを聡先生に伝えた可能性もある。
『詳しい事は教えてくれなかったんだけど、もしかしたらそれなのかねぇ。でも、とにかく翠ちゃんの身の安全を心配していたから、翠ちゃんが無事なら大丈夫だね。先生に大丈夫だって伝えておくよ』
「はい。私も後でメール送っておきます」
『うん、そうしておいて。先生もきっと安心するよ。それじゃあ翠ちゃん、これからも頑張ってね。バイバイ』
「はい。ありがとうございました」
久しぶりに桃先生の声を聞いて安心感を覚え、残りの道を軽い足取りで歩む。頬に当たる風が心地いい。