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第56話 五人で食事

 美香の質問に答えている内に時間はあっという間に過ぎていき、夕食の時間となった。


 皆を食堂に連れていき、私は台所へ行って肉じゃがを温め直し、炊いたご飯をよそい、お茶を入れ、ディサエルにも手伝ってもらってそれらを食卓に並べた。今度は皆で一緒に「いただきます」と言って食べ始めた。こんな事をすると学校の給食の時間を思い出す。


 異世界から来たディサエル、スティル、ロクドトの三人が箸を使えるのかどうか分からず箸と一緒にフォークとスプーンも用意したのだが、何処かで覚えたのか双子は箸を使って食べていた。ロクドトはというと、最初こそはフォークを使っていたのだが、皆が箸を使っているのが気になったのか、見よう見まねで箸を使い始めた。だがこういう時のお約束とでも言うか、箸の持ち方から間違っているので上手く食べられない。


「何なのだこの棒は。何故キミ達はこんな棒切れで食べられるのだ」


 眉間に皺を寄せながらそんな事を言ってきた。


「棒切れではなく箸です。この国の人なら殆どの人が小さい頃から箸を使って食事をしているので、私と美香ちゃんは使えて当たり前ですけど……ディサエルとスティルさんは何で使えるの?」


「「神だから」」


 答えになっているのかどうか分からない答えが返ってきた。しかし何故だか説得力がある。双子はそれ以上何も言わず、また肉じゃがを食べ始めた。


「ロクドトさん、ペンは持てますか?」


 と美香が問う。美香ちゃん、それは馬鹿にしすぎじゃないかな……。ロクドトも「キミはワタシを馬鹿にしているのか?」と言いたいのをグッと堪えた様な顔で「持てるが?」と低く唸った。


 流石に美香も気づいたのか、ハッとした表情で「すみません」と言った。


「橋の持ち方の説明をしようと思っただけで、別に馬鹿にするような意図はないんです……。えっと、ペンを持つように箸を一本持って、それからその下にもう一本入れると、いいですよ……」


 美香はロクドトの鋭い視線に耐えられなかったのか、段々と俯きながらもそう言った。ロクドトも威嚇しなくたっていいのに。


「そうか。それはどうも」


 釈然としない顔をしつつも、ロクドトは言われた通りに箸を持ってみる。ペンを持つように一本、そしてもう一本。


「……これでどうやって食べるのだ?」


 ロクドトの箸の持ち方を見ると、まだ何か違っていた。自分の箸の持ち方と見比べて観察すると、その違いが分かった。


「下の箸は中指じゃなくて、薬指に置いてください。上の箸だけこうやって動かして、食べ物を摘まんで食べるんですよ」


 私が自分で実際に箸を動かしながら説明する。それを見ながらロクドトも同じように箸を動かす。何度か失敗したが、なんとかジャガイモを摘まんで口の中まで持っていく事ができ、拍手が沸き起こった。


「……キミ達、やっぱりワタシを馬鹿にしているだろう」


「してませんよ」


「そんな事してませんって」


「使えない方が悪い」


「いつも馬鹿とか愚かとか言ってるんだから、たまには自分が言われる側になっても文句言えないでしょ」


「ぐぅ……」


 流石のロクドトも、最後のスティルの言葉には何も言い返せないようだった。

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