「ロクドトさん、説明ありがとうございます」
感謝の意を述べ、私は彼に頭を下げた。
「これが謎の臨時講師、コダタ先生の正体とその背後にあったものです。ディサエルの妹、スティルさんも助けたから、これで美香ちゃんの依頼は達成……でいいかな」
何しろ初めての事だから、これで本当にいいのかどうか判別し難い。
「はい……まだ全部は理解できてませんが、でも……何で教えてくれなかったんですか?」
「えーっと……何を?」
「翠さんが魔法使いだって事とか、ディースくんが神様だって事ですよ! 初めて会った時に何で教えてくれなかったんですか?」
もっと早く教えてくれてもよかったのに。と美香は興奮気味に言った。
「実は、あの日家に帰った後に翠さんから貰った名刺を見てみたら、”魔法探偵”って書いてあってビックリしたんです! でも、魔法なんて現実に存在しないし、そんな漫画みたいな事名刺に書く訳ないから見間違いかな、って思ってもう一度見てみたら”魔法”の二文字は消えてて……。その後も見るたびに魔法って書いてあったりなかったりで、どういう仕掛けなのか気になってたんですよ。あれも魔法なんですか?」
ぐい、と身を乗り出して聞いてきた。反対に私は身を反らしながら答えた。
「う、うん。ごめんね、ずっと黙ってて。あの名刺と、ここの看板もなんだけど、魔法の存在を知る人にしか”魔法”の二文字が見えないように魔法を掛けてあるの。私が魔法使いだって事をずっと黙ってたのは本当にごめん。普通の人には魔法の存在を知らせちゃ駄目って決まりで……」
「お、おお! やっぱり魔法使いは隠れた存在なんですね。そういうの定石ですもんね……!」
ずっと黙っていた事に罪悪感を抱えていたのだが、こうも興奮されると逆に黙っていてよかったような気もしてくる。最初から正体を明かしていたら、話が進まなさそうだもの……。だが隠していた事を怒ってはいないようでほっとした。
「あの、魔法使いって、やっぱり杖を使うんですか?」
何だか昔の私を見ているようで、微笑ましさや懐かしささえ感じる。
「杖が無くても魔法は使えるけど、私は使ってるよ」
懐から杖を出すと、またしても美香は感嘆の声を上げた。
「触ってみても、いいですか?」
駄目だなんて、言える訳がない。杖の先端を持って美香に差し出すと、彼女は恐る恐る手を伸ばし、杖の握りを掴んだ。
「今ならパトローナス出せます……!」
美香は喜びや幸せといった感情をありありと顔に出しながら言った。
ひとしきり眺めまわしたり振ってみたりした後「ありがとうございます」と言って美香は杖を返却した。
「ディースくんは何で神様なのを隠してたの?」
美香は興奮冷めやらぬ状態で今度はディサエルに質問した。
「初対面で「オレは神だ」なんて言っても変な奴だと思われるのがオチだろ?」
私には言ってきたくせに。
「それにお前が翠に話してた相談内容を聞いて、本当の事を言えばこちらも怪しまれるし、もしかしたらオレの事を本当に魔王だと思うかもしれない。オレがここにいるのがあいつらにバレるかもしれない。そんな事を考えた結果、ああして嘘をついた。それについてはすまないと思っている」
そう言ってディサエルは頭を下げた。すると美香は慌てた様子で返した。
「そ、そんな頭下げないで! 別に怒ってる訳じゃないし、ディースくんが魔王だなんて、そんな事思わないよ! だって美味しいお菓子を作ってくれた礼儀正しく良い子なディースくんが魔王なはずないもん!」
(……マジでそう思ってたんだ)
あの日の夕飯後にディサエルが口にした事を、そのまま美香が言った。横目でディサエルを見ると、ディサエルもこちらを見て少しだけ唇の端を上げた。何かムカつく……。
「初めて会った時に神だって言われても信じられなかったかもしれないけど、でも、妹のスティルちゃんを心配する気持ちは本物だったし、だから神様だって言われても、信じてみようって思ったかもしれないし……上手く言えないけど、本当の事を言ってくれたら嬉しかったなって、そう思うの」
「そうか……ごめんな、美香。それと、ありがとう」
「……うん」
喧嘩をした訳でもないが、仲直りの印に、と二人でハグをしてこの件はこれで終わった。