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第54話 説明会③

「その時は双子に逃げられたが、カルバスはその程度で諦める奴ではない。団員達も魔王が逃げた事に腹を立てていたしな。カルバスはディカニスを引き連れ、双子を追い、別の世界に行こうが追いかけ、幾つもの世界で執拗に追いかけ回し、そしてこの世界へとやってきた」


 美香の「うわっ……」とドン引きする声が聞こえてきた。これではただの悪質ストーカーなのだから、引くのも無理はない。私も引いている。


「本当にしつこいんだから、信仰されてない世界にいけばちょっとはマシになるかな~って思ったのに、マシになるどころか捕まって最悪だったよ」


 スティルが頬を膨らませながらロクドトを睨んだ。


「ワタシを睨んでも意味は無いぞ。カルバスもそこまで馬鹿ではない。どの世界に行っても力が使えるように、常にディカニスを引き連れているのだからな。キミ達が信仰されていない世界に行くであろう事も考えていたし、そうしてくれた方がこちらに有利だとも言っていた。神相手ではいかな歴戦の猛者であれ太刀打ちできないが、ただの少女相手なら簡単に組み伏せる事ができるからな」


 今度はディサエルの舌打ちが聴こえてきた。隣を見るのが怖い。


 美香が恐る恐る手を上げて発言した。


「あのぉ……それって、凄く……卑怯じゃないですか? 大人の男性相手じゃ、女の子が勝てる訳ないじゃないですか。そうやって勝って嬉しいんですか?」


「確かに騎士道精神に反しているように聞こえるが、いいか。カルバス、及びディカニスにとってディサエルは魔王、絶対悪なのだ。それを倒す為ならどんな手段も使う。それに……ディサエル。キミはいつもその姿なのか?」


「いや、その時の気分で変える時もあるし、その土地の人間の望む姿に変える事もある。いかにも”魔王”って感じの邪悪そうな姿とかな」


「そういう事だ。信仰されている世界にいた時は、この姿ではなかった。カタ神話の内容を描いた絵画でも、魔王は邪悪で獰猛な姿をしている。魔王の、ディサエルの本来の姿を知るものがいないからだ。だがこの世界に来てからは、信仰心が無く魔法が使えない為に本来のこの少女の姿になった。まぁ、ワタシは前線に出ていないから魔王の姿が変わったという話を聞いただけで、この姿を見たのは昨日が初めてだ。予想よりも幼い姿で驚いた。ディカニスの中にも同じくこの姿に驚いた者もいただろうが、捕まえにくくする為の魔王の戦略だと考える者もいただろう。実際に逃がしたのだから、捕まえにくいと思った奴がいたのだろうな」


「もしくはオレが逃げ上手だったか、だ」


 隣のディサエルが野次を飛ばした。


「ワタシはその場にいなかったから詳細は知らんのだ。とにかく、スティルは捕まえられたが魔王は逃がしたのだ。勝ったとは言い難いから嬉しいとも思っていないだろう。逃がした魔王を捕らえる為、またカルバスの力を増幅させる為にディカニスは行動を起こした。この街の学校への潜入だ」


 美香がまた手を上げて質問した。


「何で学校に潜入する事にしたんですか? 他の先生方がコダタ先生の事を知らなかったのも何故ですか?」


「この世界に来た時点での魔王の姿……つまりこのディサエル本来の姿の事だが、このくらいの年齢の者が紛れていても不自然ではない場所を調査した結果、中学校もしくは高等学校と呼ばれる教育機関が候補に上がった。魔王が力を得る、つまり信仰を得る為には大勢の人間がいた方がいい。それに見た目の年齢が離れた人間よりも、近い方が怪しまれる心配も少ない……そう考えたのは誰だったか……ああ、ギンズだ」


 あの現代服か。


「実際にはディサエルは彼女一人の信仰心を得てこの屋敷で過ごしていた訳だが、こちらはそれを知る由もない。魔王は学校で信者を得ようとしている、と仮定した愚か者共は、それよりも先に無垢な少年少女たちをカルバスの信者にしてカルバスの力を増やす為にも、各学校に一人ずつディカニスのメンバーを派遣した。その中の一校がキミの通う学校で、うら若き乙女達の通う学校なら若手でかつ容姿の優れた者がいいだろう、という理由でコダタが選ばれた」


 確かにコダタは容姿が良いか悪いかで言ったら良い類いに入るように感じたが、ディカニス内でもそういう認識なのか。


「魔王探し兼カルバスの信者獲得の為に学校に潜入する事になったが、流石の馬鹿共も魔王が学校にはいない可能性も考えていた。他の教師がコダタの事を知らなかったのはそれが理由だ。ディカニスがこの街にいる事や、行動を起こしている事を魔王にわざと知らせる為に、学校に潜入しているディカニスの団員の事を他の教師が知らない、という不自然さを入れる事にしたのだ。学校でおかしな事が起きている、という噂が広がれば魔王の耳に入るだろうと考えてな。そしてその通りになった。キミがここへ来て学校で起きているおかしな事を相談しに来た。後の事はワタシよりもキミ達の方が詳しいだろうから、ワタシからは以上だ」


「私も罠にハマっていたんですね……?」


 話を半分しか飲みこめていなさそうな顔で美香は呟いた。かろうじてそれだけは分かった、とでも言うように。「そうなるな」とだけロクドトは返した。

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