「翠さん、こんにちは。お邪魔します」
メッセージが来て十数分程経ってから美香が来た。既に双子は私の隣に座っているのだが、ロクドトはまだ来ない。一体何に時間を掛けているのだろう。
「美香ちゃん、いらっしゃい」
「美香さん、こんにちは」
「ディースくん、こんにちは。……あれ? お隣の子は?」
美香は向かいのソファに座りながら、ディサエルの隣に座るスティルを見て、好奇心を露わにしながら聞いた。
「ボクの妹のスティルです」
「初めまして、美香。わたしはスティル。あなたがわたしの事を心配してくれたって聞いて、とっても嬉しい」
クスクスと笑いながら(きっと”ディースくん”の演技をしているディサエルの事が面白可笑しいのだろう)スティルは言った。
「あなたがディースくんの妹ちゃんなの⁉ 助かったんだね。良かった~」
双子の容姿の違いに驚きつつも、美香は安堵の表情を浮かべた。スティルは「ありがとう」と言ってまたニコニコと笑顔を浮かべている。
美香が出された紅茶を一口飲むと、早速本題に入ってきた。
「翠さん、昨日はあの後何があったんですか?」
さあ、いよいよだ。魔法の存在を、己の正体を明かす時が来た。私は一度深呼吸してから切り出した。
「実は……」
私が魔法使いである事、ディースという名前は嘘で、本当の名前はディサエルである事、ディサエルもスティルも、コダタが授業で使用した本に登場した神と同一人物である事、ディサエルが催眠を掛けて美香を帰らせた事、等々。私達の正体含め、昨日の出来事を嘘偽りなく(ロクドトがいないからディカニスの説明は省いたが)美香に話した。美香は驚きの声も上げはしたが、話を妨げる事無く聞いてくれた。
「それで、コダタさんが所属しているディカニスっていう、カルバス直属の騎士団の事なんだけど……」
くそう。ディカニスの説明も私がしないといけないのか。ロクドトはどこに……。
(……あ)
紫色の靄――魔力が視界に入ってきた。と思うとすぐにそれは人の形になった。
「その説明はワタシがしよう」
「ひゃあ‼」
「は⁉」
室内に突如として現れた人物に、美香は勿論、私も驚いた。双子も驚いたような声をあげている。魔力の色は確かにロクドトのものだが、一体誰なんだこの綺麗な身なりの人物は。長い髪を一つに纏め、髭を剃り、十八世紀頃の西洋貴族の様な服装に身を包んだこの人物は本当にロクドトなのか……⁉
「彼女が驚くのは分かるが、何故キミまでそんなに驚くのだ。キミが身なりを整えろと言ったのだろう。お望み通り、整えてやったぞ」
口調だけはいつものロクドトで安心した。
「翠さん、誰ですかこのソシャゲから飛び出してきたような人は」
ソーシャルゲームのキャラクターとは言い得て妙だ。この格好はレアリティ度が高い。
美香はひそひそと私に話しかけてきたのだが、ロクドトはその声を聞き逃さなかった。彼は美香の目線に合うように片膝をついて自己紹介をし始めた。
「申し遅れた。ワタシはロクドト。ディカニスの元団員だ。キミが羽山美香だな? 話は聞いている。彼女に変わってワタシがディカニスの説明をしよう」
「よ、よろしくお願いします……」
色々と圧倒されながら美香は頷いた。その気持ちは大いに分かる。