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第50話 束の間の異文化交流

『翠さんこんにちは、美香です。昨日は気がついたら家にいたんですけど、あの後どうなりましたか? なんと今日は臨時講師が来ていないんです! 昨日何があったのか教えてほしいので、放課後そちらにお伺いしてもいいですか?』


 何とも狙ったようなタイミングで来たものだ。何と返事をするか少し考え、スマートフォンに文字を打ち込む。


『美香ちゃんこんにちは。昨日はありがとうございました。私もそれについて話したい事があるから、是非事務所へ来てください。もしよかったら夕飯も食べていく?』


 送信。するとすぐ返事が来た。


『いいんですか? 食べます!』


 五人分か。買いに行かないと材料が足りなさそうだ。


 待ってます。と返事を送り、顔を上げると三人が何やらひそひそと会話をしている事に気がついた。


「彼女が持っているものは何だ?」


「スマホっていう機械だそうだ。あれで会話をしたり手紙のやり取りをしたり、あと何か色々できるらしいぜ」


「ああ、シラデルフィアみたいなやつ?」


「いや、それが一般人も普通に皆持ってるらしい」


「魔法使いの道具を魔法使い以外も持っていると言うのか?」


「……」


 カメラを起動し、三人が画面内に収まるようにソファを離れ少し移動。フラッシュありでシャッターを押す。パシャリと音が鳴った。


「光ったぞ!」


「翠、今何したの?」


 スティルのロクドトの驚いた顔が何だか妙に面白い。ディサエルは自分だけ分かっているのが愉快なのか、ニヤニヤと笑っている。


「精巧な絵画を瞬時に描いた、とでも言いますか、スマホで写真を撮ったんです」


 撮った写真を皆に見せる。


「凄い! わたし達が描いてある! しかも正確に!」


「それがシャシンだからな」


「この一瞬で描くとは、大した魔法だな」


「カガクって言うんだぜ」


 何でディサエルが得意げなんだ。


「この世界では、魔法の代わりに科学が発達しているんです。このスマートフォンはその科学技術を駆使して作られたものです。遠くにいる人と会話をしたり、手紙のやり取りをしたり、今みたいに写真を撮ったりもできますし、他にも音楽を聴いたり、ゲームをしたり、お財布として使う事もできます」


「シラデルフィアよりも色々できるんだね」


「そんなに多様な事ができるのに魔法ではないのか?」


「スティルさんが言ってるのが何なのか知りませんが、魔法ではありません。まぁ……確かに、魔法みたいと言われれば魔法みたいですけど」


 十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。なんて言われているし。それはさておき言わねばならない事がある。


「皆さん、今日の夕飯を私が作る代わりにお願いしたい事があります。夕方頃に羽山美香という依頼人の女の子が来ます。彼女は学校に来た臨時講師……コダタさんが何者なのか、またその背後に何があるのか突き止める事を私に依頼しました。スティルさんを助ける事も。なので彼女がここに来た時に、皆さんには昨日起きた事や、ディカニスが何なのかとか、説明するのを手伝ってほしいです」


 それはこの世界魔法の存在を包み隠さず話す事になる。当初こそ隠してはいたが、正体を明かさねばきっと話の途中で齟齬が出る。それに嘘をつき続けるのは美香に申し訳ない。


「いいのか? あいつ一般人だろ」


「うん。いい」


「つまり、その子もわたしの使徒にしていいって事?」


「それは駄目です」


「キミ一人ではディカニスを上手く説明できないから、ワタシを利用しようという訳か」


「うっ……まぁ、そうです」


 三者三様の返答を貰ったが、手伝ってくれると受け取っていいだろう。


「翠のお願いは何でも聞くって言っちゃったからね。いいよ。その子、わたしの事も気に掛けてくれたみたいだし」


「ありがとうございます」


 何もかも正直に話した結果、美香がどんな反応をするのかは分からない。だが魔法使いになりたいと言った彼女に「魔法は無い」なんて、そんな夢も無い事は言いたくない。私のわがままかもしれないが、私も夢を見せてもらった時のように、彼女にも夢を見せたい。

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