「病み上がりの人間でも食べやすいように、消化のいいものを作ったぞ」
キャベツや人参、大根の入ったコンソメスープ、ほうれん草入りのオムレツにマッシュポテト。確かにこれは食べやすい。
「この国の料理をちょこっと調べてね、翠が喜ぶかな~と思ってこれも作ったんだよ」
そう言ってスティルが私の前に出してきたのは、鮭と卵の入った雑炊だ。ほかほかと湧き出る湯気と出汁の匂いが食欲を誘ってくる。
「うわぁ、絶対美味しいやつだ」
実はディサエルが来てからというもの、和食を殆ど食べていない。ディサエルが作る料理は洋食(っぽいもの)やエスニック料理(みたいなもの)ばかりだったのだ。どれも美味しいから文句は無いのだが、たまには味噌や醤油を使った和食も食べたい。
「そうだろうと思って作ってやったぜ」
「ああ、お見通しだったんだ……。でも、わざわざ作ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
ディサエルとスティルもソファに座り、私と双子は手を合わせて言った。
「「「いただきます」」」
「……」
その様子をロクドトは変な物でも見るような顔で眺めた。
「それは何かの儀式か?」
「いえ、これは別に」
「そうだよ。この国では食べる前に「いただきます」って言わないと、神罰が下るんだって」
「この国の神の数はやたら多くて、米一粒だけでも七柱いるらしいぜ。それを何も言わずに食べたら……流石のオレでもヤバいだろうな」
などと神妙な面持ちで神が言う。そのせいで私はロクドトに疑わしい顔を向けられた。
「キミ、この話は本当か?」
「……はい」
「今目を逸らしただろう。嘘なんだな」
「うっ……。でも全部が全部嘘ではありませんよ。日本には八百万の神々がいるって言われていますし、お米の話もよく聞きますね。あと「いただきます」と言うのは、命をいただくとか、作ってくれた人への感謝の気持ちとか、そういった意味があります。食べ終わった時には「ごちそうさまでした」と言うんですよ」
「なるほど。そういう風習……いや習慣か。ならばワタシも従うとしよう」
ロクドトも手を合わせて「いただきます」と言い、皆で食事をした。
双子が作った料理はどれも絶品で、特に雑炊は美味しかった。白ごまがトッピングされていて噛むたびに香ばしさが口の中に広がるし、鮭の塩味がやみつきになる。そして出汁の優しさが身体全体を包み込んでくる。
「良い顔して食べるね」
「へ?」
気づいたらスティルがにこにこした笑顔でこちらを見ている。
「翠の笑ってる顔を見てなかったから、やっと笑顔を見られて嬉しい。美味しく食べてくれてありがとう」
そんなに顔が綻んでいたのか。
「こちらこそありがとうございます。雑炊すっごく美味しいです」
「どういたしまして」
「それ作ったのオレもだからな」
「ディサエルもいつも作ってくれてありがとう」
「おう」
「……それ、ワタシの分は無いのか?」
「「無い」」
雑炊があるのは私だけで、あとの三人は食パンだった。
「少しあげましょうか?」
「いや、それではキミの分が減ってしまうだろう。それに食べかけをもらう趣味は無い。この国の料理が少し気になっただけだ。気にするな」
雑炊を見つめながら言われると気になってしまう。
「この後もまだここにいるなら、夕飯に和食を作ってあげますよ」
「え⁉ 翠の手料理食べてみたい!」
「オレも気になるな」
「……馳走になろう」
四人分も量を間違えずに作れるだろうか。
そこへスマートフォンがメッセージの通知音を鳴らしてきた。そう言えば鞄はどこかしらん、と探したらソファの横に置かれていた。三人に断ってスマートフォンを取り出し画面を覗くと、美香からこんなメッセージが送られていた。