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第48話 目覚め③

「あの、失礼でなければ教えてほしいんですけど、ロクドトさんがいた世界ってどんな世界なんですか? みんな当たり前のように魔法を使っていたりするんですか?」


 ふむ……。と思案顔をしてからロクドトは口を開いた。


「この世界と比べれば魔法の存在は当たり前ではあるが、誰もが魔法を使える訳ではない。ディカニスの中にも魔法が得意ではない奴もいるしな。昔は剣も魔法も扱える者のみが入団できたそうだが、今は大きな戦が起こる事も少なくなり、剣の腕も、魔法で戦う技術も、大して必要ではなくなったのだ」


「あ、そう言えばコダタさんが、戦闘経験が浅いって言ってました。騎士団って言うと皆経験豊富で強そうなイメージだったんですけど、時代によってまちまちだったりするんですかね」


「もしくはキミが本の読み過ぎで誤ったイメージを抱いているか、だな。ディカニスはカルバス直属の騎士団なのもあって、ある程度剣か魔法が強くなければ入れないが、誰だって最初は未経験だ。毎日の様に訓練はしているが、毎日の様に戦場へは行かない。戦場へ行っても、作戦内容によっては前線に出ない者もいる。だから同じ時期に入団した者の中でも実践経験はバラバラだ」


「へえ……そういうものなんですね」


 だが言われてみれば確かにそうだ。どんなものであれ、誰だって初めは右も左も分からない状態からのスタートだ。私だって桃先生に魔法を習い始めた当初は全然上手くいかなかった。それが毎日練習したから思い通りに魔法が使えるようになった。だが今回、初めて戦わなければいけない状況に陥り、恐怖心もあって普段通りにはいかなかった。最後にはカルバス達を送り返したが、それだってディサエルとスティルの助けがあったからできたのである。私もまだまだ経験不足なのだ。


「そういうキミは、魔法が一般的ではないこの世界で、何故魔法使いになったのだ?」


 今度はロクドトが質問してきた。


「私は昔からアニメとか映画とか……えーっと」


 どうしよう。早速「何言ってんだこいつ」って顔された。何て説明しよう。


「動く紙芝居というか、絵画が演劇をやっているというか、そういうのを見るのが好きで……」


「こちらにも演劇絵画があるのか」


 頑張ってひねり出した例えなのに、そっちには存在しているのか……。思わぬところでカルチャーショックを受けた。


「この世界では魔法は確かに一般的ではありませんが、普通の人の中でも魔法の存在を信じる人、夢見る人もいまして、そういう人達が魔法の世界を描いた物語を作るんです。そうした物語を見て育った私も魔法を信じていました。そんなある日、本当に魔法が存在する事や、私が見えているものが魔力だという事を知って、それが凄く嬉しくって……。魔法の存在を教えてくれた人達が、魔法の使い方も教えてくれると言うので、それで使い方を教えてもらって私も魔法使いになりました」


「キミは案外夢見がちなのだな。まぁ、まだ子供なのだから思う存分夢を語るといい」


「いや、私もう成人済みです……」


 私がそう言うと、ロクドトは鋭い目を丸くさせた。


「まだ十代ではないのか?」


「カルバスも少女だ何だと言ってましたが、私二十五歳ですよ」


「……これは驚いた」


 欧米人から見たら日本人は実年齢より幼く見えるらしいが、まさか異世界人に幼く見られる日が来るとは。


「いや、だがワタシからしてみれば、二十五歳だろうがまだまだ子供だ」


 考えを曲げる気は無いのか。


「ロクドトさん年幾つなんですか」


「三十七歳だ」


「え、一回りも違うんですか」


「……何が回るんだ?」


「干支が……えーと、何て説明すれば……」


「おいガキ共、昼飯が出来たぞ」


「お子様ランチが出来たよ~」


 いつの間にやら、見た目だけならこの中で一番幼い双子がお盆に料理を乗せてやってきた。ディサエルの真っ黒なスーツ姿はいつも通りだが、スティルはスティルで真っ白なパンツスーツを着ている。勿論リボンは真っ赤だ。


「年齢が二桁な時点でお前らどっちとも子供だろ」


「わたしたちなんて、もう数えるのが面倒なんだよね」


 見た目は十五歳だがその実何年生きているのか分からない二柱の神が、そんな事を言いながらてきぱきと食事の準備をしていく。


「神に言われてはどうしようもないな」


「そうですね。一回りどころじゃないですもん」


「”ひとまわり”とは何なのだ……」


「動物が回るんですよ」


「何も分からん」


「ですよね」


 詳しい説明は放棄した。なぜなら今、目の前には美味しそうな料理がずらりと並んでいるからだ。

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