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第16話 夕食②

「月? 何で?」


 肌や髪の白さが月の光を連想させるとか? でも何故それが重要なのだろう。


「オレ達が生まれた国は、太陽の国と呼ばれていた。太陽の国の民は、皆オレみたいな色の肌をしていたんだ。だが妹は真っ白だから、太陽の国の民ではないと忌み嫌われていた。これは生まれる前に、母親が毎日、太陽が真上に昇る時間と真下、つまり月が昇っている時間にお祈りをしていたから、月の民が生まれたのだと言われていた。だから月に祈りを捧げた事で生まれ、月の民と言われた妹は、月の力が使える。だから元々妹は月を司っていたんだ」


「ふうん」


 話の理解が追い付かず、月の力というのが何なのかもわからず、生返事をするに留めた。


「月の力の説明は省くが、まずここで大切なのは、オレが太陽で妹が月だという事だ。これは分かったな?」


「うん」


 こくり、と頷く。


「だが話が伝わる過程でこれが逆になった。オレが月で妹が太陽に」


「逆になると、どうなるの?」


「雷神に風を操ってほしいと願っても、願う力の内容が違うんだから、雷神本来の力は発揮できないだろ?」


「うん。……あ、ディサエルに月の力を使ってほしいと願っても、ディサエルは月の力を使えないし、スティルさんに太陽の力を使ってほしいと願っても、太陽の力は使えない……って事?」


 そういう事だ。と言ってディサエルは頷いた。


「だから本来の力が発揮できるように、その神様が何の力を使えるのか知っておいてほしい。という訳だ」


 なるほど。確かに魔法を使う時だって、火を出そうとするのに水を思い浮かべたりはしない。それは神の力であろうと同じ、という訳か。


 私がディサエルの話に納得したその時、オーブンの鳴る音が聞こえてきた。


「鶏肉が焼けたな。皿に盛るのを手伝ってくれ」


「うん。この鶏肉とタマネギ炒めを合わせたものがクォ……えーっと、悪魔払いの料理?」


「いや、タマネギだけだと物足りないから鶏肉を足した。ガッツリ食いたいだろ?」


 うん。と言う代わりに、お腹の音が返事をした。ディサエルの言う通り、タマネギだけでは物足りない。


 鶏肉とタマネギを皿に盛り付け食堂へ運び、夕飯の時間となった。


「美香ちゃんが来た時さ、何であんな……全然違うキャラだったの?」


 覚えづらい名前の料理を食べ終えた頃、昼間ずっと抱いていた疑問を口にした。


「宗教勧誘を受けたと言ってる奴相手に「オレは神だ」なんて言うのはマズいだろ」


 それは至極当然のように聞こえた。だが、私相手に神だと言うのは何の問題も無いのかよ。


「それに今あいつに良い印象を抱かせておけば、もし奴らに「あいつの正体は魔王だ!」なんて言われても、そう簡単には信じないだろ? 美味しいお菓子を作ってくれた礼儀正しく良い子なディースくんが魔王なはずない、ってなる確率の方が高い」


 確かにディサエルの作る料理もお菓子も美味しいが、自分で礼儀正しいとか良い子とか言うなよ。


「だがそう思っても不思議ではないだろ」


「うぅ……」


 心を読まれた事への若干のムカつきと反論しづらい事が重なって、何も言えなくなってしまった。ディサエルが美香に良い印象を与えていた事は確かなのだ。


「奴らが行動を起こしたのは、信者を増やして力を得る為でもあるが、オレをおびき寄せる為でもあるだろう」


「え?」


 そんな事まで考えていたの?


「妹を捕られたオレが、そのまま諦めるはずがないと踏んだんだろうな。だから何か目立つ事をすれば、必ずオレが妹を取り戻す為に現れる。だったらお望み通り、奴らのアジトに乗り込んでやろうぜ」


 悪戯っぽい笑みでディサエルは言う。まるで今の状況を心底楽しんでいるかのように。


「それで臨時講師に会わせろって言ったのか」


 初めは突拍子もない話に聞こえたが、そこまで考えていたのであれば納得はいく。それに直接連れていってもらった方が、探す手間が省ける。


「そういう事だ。だから……さっきの話も絡めるが、オレが魔法も使えて創造と太陽を司る神でもある、という事を信じて、一緒に奴らをぶちのめそうぜ」


 そう言ってディサエルは拳を突き出した。


「創造を司ってるのに、破壊神みたいな事言うね」


「破壊神と言われる事もあるからな」


 その答えに私は小さく笑みを漏らし、突き出された拳に自分の拳を合わせた。

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