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第8話 依頼人(神)についての考察

 自宅としても使用している二階建ての小さな洋館の一階、その一室に事務所を構えている。聡先生が幾つか所有している別荘の一つであり、どれでも好きな別荘を使ってもいいとの事で、一番魔法使いっぽい外見の建物を選んだ。魔法使いになった今でも、そうしたものに対する憧れは強い。


 どうして聡先生が幾つも別荘を所有しているのかは知らない。だが、どの別荘にも魔法道具を作る為と思しき工房が存在する事や、時々ふらりと出掛けて行ったと思ったら何日も帰ってこなかった事を考えると、どこかの別荘へ行って、そこで魔法道具の製作を行っていたのだろう。この屋敷にも二階に工房がある。私は道具作りをしない為その部屋は放置していたが、ディサエルが気に入ったと言うのでそこを好きに使わせている。だから日中は事務所に私、工房にディサエルがいる事が多く、昼食の後事務所へと戻ってきた私は、特に用さえなければ夕食までディサエルに会う事はない。それまでには気まずかった空気も雲散霧消してくれればいいのだが。


 日中事務所にいるのは、依頼人が来た際すぐ対応できるようにする為であるが、ディサエル以外の依頼人は一向に現れない。別の世界から神が少なくとも三柱は来ているのだ。何か魔法関連の事件が起きてもいいような気はするが、双子を追ってきた神はディサエルの妹を捕まええて以降、目立つような動きはしていないのかもしれない。


「どうしよっかな……」


 肝心のディサエルはまだ魔力が十分蓄えられていないらしい。出会った時に魔法使いだと分からなかったくらいには魔力量が少なかった。それは今でも変わらない。食事を作っているのもそうだが、屋敷内の掃除をしているのも、私の信仰心を高める為だそうだ。それでもまだ十分ではないとみえる。私としても捜査の為に早くディサエルの魔力が溜まってほしいと思ってはいるが、どうすれば今まで意識した事もない、信仰心という曖昧なものを高める事ができるのかさっぱり分からない。


 だがものは試しだ。ディサエルの事について考えてみよう。理解が深まれば信仰心とやらも高まるかもしれない。たった今そう思いついた。


 ディサエル。ここではない、どこか別の世界の神。双子の妹がいて、また別の神に彼女を捕らえられた。妹を助ける為にこの事務所へ訪れた。魔法を使えるが、神として信仰されていない世界では満足に使えない。その為か魔力の痕跡も十分気をつけないと見つける事が難しい。


「あれ? それじゃあ、もしかして」


 妹も同様に魔力量が少なく、彼女の痕跡を探すのが難しいのではないか?


 いやしかし、双子を追ってやってきた神は、集団を率いているらしい。魔王と呼ばれているディサエルだから信仰されず、力も少ないのであって、女神と呼ばれている妹の方であれば、その集団が妹を信仰していて、力もそれなりに蓄えられている可能性もあるのではないだろうか。それなら魔力の痕跡を見つける事もできるだろう。しかしどちらにせよ憶測の域を出ない。


(ディサエルに聞いた方がいいのかな……)


 でもまだちょっと会いづらい。のでもう少しディサエルの事を考えていよう。


 先程の食事の席で、ディサエルは王族の出である事が判明した。それに加えて父親である王様に酷い扱いを受けていた事、その結果国を滅ぼすに至った事も。


(アグレッシブだなあ)


 だからこそ魔神とか破壊神とか言われているのだろう。だがそれは双子の妹も同様なのではないか……? 妹は女神だとか創造神だとか言われているのに、ディサエルだけそのように言われているのは不公平な気もする。何か理由があるのだろうか。


「う~~~~ん」


 性格面であれば、ディサエルに何も問題ないとは言い難い。しかしそれだけで魔神と言われるのだろうか。妹の性格はどうなのだろう。女神と言われるくらいだから優しいのだろうか。そういえばディサエルから、妹の事は大して何も聞いていない。名前も、外見の特徴も。


(やっぱり会って話すしかないか……)


 そう思った時だった。新たな依頼人が来たのは。

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