「なるほどなぁ」
ディサエルと共同生活が始まり早三日。昼食の席で何故魔法使いになったのかと問われた私は、先の話を言って聞かせた。
「んで、その後お師匠さんの所で暮らしながら魔法を教わったのか」
世話になっている身だから。と言ってディサエルは二人分の食事を毎日三食作っている。今日の昼食は挽肉、チーズ、ジャガイモを使ったコランタという料理だ。グラタンの様に見えなくもないが、作った本人が「コランタだ」と言っているのでそういう事にしておく。きっと世界が違えば、同じ料理でも名前が変わるのかもしれない。
「そう。でも、小学六年生の途中で転校するよりも、中学に進学するタイミングの方がいいだろうって事で、それまで待つ事にはなったけどね」
そう言って私はまたコランタを一口食べる。見た目だけでなく味もグラタンっぽい。
「ふぅん。貰った杖はまだ使ってるのか?」
「うん。色々と使い勝手が良くて……まぁ、杖無しでも魔法は使えるけど、愛着もあってずっと使ってる」
「そうか。……お師匠さんが説得しに行った時、お前の親の反応はどうだったんだ?」
もう一口食べようと動かしていた手が止まった。
「あー……どうだったかな。私はその場にいなかったから。後から桃先生にどんな話をしたのか聞かされたけど、忘れちゃった」
嘘だ。
桃先生が両親を説得しに家へ来た時、話し合いはリビングで行われた。私は確かに”その場”にはいなかったが、扉越しにその話を聞いていた。だから桃先生が引っ越しの話をした時、両親が一度も拒否をしないどころか、嬉しそうな声を出していた事もよく覚えている。忘れたくても忘れられない。
「そうか」
嘘をついた事に、きっとディサエルは気付いているのだろう。だがそれ以上何も言わず、残りのコランタを平らげる。無理に気を使わせてしまったように感じ、私はいたたまれない気分になった。
「あの」
「ま、親なんてクソ食らえって感じだよな」
「え?」
思わぬ言葉に顔を上げる。対面に座っているディサエルは、空になったお皿をスプーンでコツコツと叩きながら、何かを考えるような気難しい顔をしていた。
「オレも親とは色々あってな……。もう何百年だか何千年だか昔の話だから覚えてない事の方が多いんだが、嫌悪感を抱いていたのは覚えてるんだよな」
「親いるんだ」
何だか意外に思えてそのまま口に出た。この人(神)にも親がいて、その親を嫌っているのかと思うと、少し親近感が湧いてくる。
「とっくに死んでるから”いた”と言った方が正しいがな。オレも妹も、父親からの扱いが特に酷かったんだ。だから、嫌気が差したんだろうな。魔力が暴走して国が滅んだ」
「……は?」
今サラッととんでもない事を言わなかったか? 国が滅んだ? やっぱり破壊神なのかこの神様は。
「国が滅んだって、どういう事?」
「ああ、言ってなかったな。オレ達はとある王国の王家に生まれたんだ。だから父親はもちろん王様の事だな。で、その王様に嫌気が差したんだから、国ごと滅ぼした方が早いだろ?」
「……」
あまりのスケールの大きさに理解が追い付かない。何か言おうと口を開いても、言葉がまるで出てこない。何があったら国ごと滅ぼそうという考えに至るのだろうか。
「そんなに、酷かったの?」
理解が追い付かなさすぎて、そんな当たり障りのない事しか聞けなかった。
「ああ」
それ以上詳しく言う気が無いのか、それとも言いたくないのか。ディサエルの返答はそれだけだった。だから私も「そっか」と返すくらいしかできなかった。
気まずい空気が流れ、後は二人とも「ごちそうさまでした」以外の言葉を発しなかった。