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第2話 依頼人は神様です②

 待ってました。とでも言わんばかりにディサエルは唇の端を釣り上げた。なんだかやけに鼻につく表情をする神様だ。


「それはオレが神だからだ……と言っても答えにはならないよな。簡単に説明すると、オレ達も魔法使いで、その人が魔法使いかどうか見分ける事もできる。魔力の痕跡を見つけたり、誰が使った魔法なのか見分けたりもな。だからお前が魔法使いなのも、この事務所に魔法が掛っていて、お前の魔法の力の助けを必要としている者だけ入れるようになっている事も、その魔法を掛けたのがお前とは別の魔法使いだって事もわかる。これで納得したか?」


「……はい」


 そう、ここは探偵事務所は探偵事務所でも、“魔法探偵事務所”である。ディサエルが神として君臨している世界ではどうなのか知らないが、この世界では魔法使いの存在は多くないし、認知度も低い。その為魔法絡みの事件が起きた際、警察へ相談しても取り合ってくれない場合が殆どで、そうした人たちの為に私はこの魔法探偵事務所を設立した。大々的に宣伝していないのは認知度の低さが主な要因だ。それに魔法使いの中には自分が魔法使いである事を周囲に隠したり、その存在が公になる事を嫌う人もいる。だから私も魔法使い仲間数人にのみ開業を知らせ、魔法の使い方を教えてくれた恩師に協力をお願いし、私の力を必要とする人だけここに来られるように魔法を掛け、ひっそりと事務所を構えた。


「魔力の痕跡から、誰がその魔法を使ったのか見分ける事ができるのは私も同じで、それもあって事務所を開く事にしたんですが……オレ達、と言いましたよね? 妹さんも同じようにそれができるなら、お互いの痕跡を辿れば探し出せるんじゃないですか?」


 魔法使い、と一口に言っても、誰にだって同じ魔法が使える訳ではない。もちろん誰もが使えるポピュラーな魔法もあるが、その人の素質や得手不得手によって使える魔法は大分変ってくる。魔力の痕跡を探る探知魔法もその一つで、これは生まれつき痕跡が見える人もいれば、訓練しても全然習得できない人もいる。私は前者である為苦も無く痕跡が見える。そこから誰が使った魔法なのかを探るのはそれなりの集中力が必要になるが、神であればそれだって難なくできるのだろう。であれば人探しは簡単なはずだ。


「それなんだがな……」


 ディサエルは苦い顔をして言葉を続ける。


「オレ達にも色々事情があって、お互いの痕跡を探るのができないんだよ。そういう罰を下されたっていうか……。だから探すのを手伝ってもらう為にここに来たんだ」


 罰、とは何だろうか。神を名乗るくらいだし、他の神から神罰でも下されたのかもしれない。だがそれよりも気になるのは……。


「でも、さっきこの街にはいるはずだって言ってましたよね? 何でそれは分かるんですか?」


「ああ、それはオレ達を追ってる奴らがこの街にいるからだ」


「追ってる? お二人は誰かに追われてるんですか?」


 どうやらいよいよ事件性を帯びてきたようだ。出会ってすぐ「神だ」と言ってきたせいで話半分に聞いていたが、これは真剣に聞いた方がいいだろう。


「そうなんだよ。よりにもよって、オレ達が神と認定してやった奴にな。さっきも言ったが、オレと妹は幾つかの世界で神と崇められている。で、世界によって、神話によって、神の姿形は変わる。昔、ある世界で妹は善良な心を持つ人間を導く女神として崇められ、オレは世界を滅ぼす魔神として恐れられていた」


 やっぱりヤバい方の神様が目の前にいるのか。と思いはしたが、口には出さなかった。


「その世界のとある王国に、とある王子がいた。集団を纏めるのが上手い奴だったから神にしようかとも思ったが、性格に難ありだからやめておこうって話になった。だがそいつは自分を神にするようしつこく言ってきて、段々それを面倒に感じてきたオレ達は仕方なく神にしてやったんだ。で、そいつを神に認定したその日、そいつはオレのことを人の心を惑わす邪悪な魔王だとか言って、集団を率いて倒しにやってきた」


「それは災難ですね……」


「ああ。恩を仇で返されたって感じだ。だがオレは優しいからその時は倒されたフリをしてやったんだ。オレは不死身だから死ぬ心配は無いし、悪役を演じるのも楽しいからな。その後はそいつと会わないようにしていたんだが……どうもオレが生きているのがバレたみたいでな。また倒そうと躍起になってるようだ。しかもそいつはオレと妹が一緒にいるところを見て「女神の心が魔王に操られている!」とか何とか言って、女神を救おうとこれまた躍起になってるから面倒な事になってきてな……。一先ずオレ達はそいつから離れようと別の世界に渡ったんだが、そいつまた集団を率いて追いかけてきて……ああ、面倒な奴を神にして後悔してるぜ」


 ディサエルは大きな溜息をついた。


「こうなったらオレ達が元々存在していない世界に行った方が安全だろう、と思ってこの世界に来たのがつい最近の事なんだが、考えが甘かったみたいでな。信仰されていない世界なら相手も大した力は使えないだろう、と思っての事だったんだが、集団を率いてるから、相手は魔法が使えるんだ」


「あ、つまり、魔法が使えれば二対多数でも勝てるけど、魔法が使えないから負けた……って事ですか?」


 その通りだ。と言ってディサエルはゆっくりと頷いた。


「魔法が使えないと、成人男性の集団を相手に戦うのはオレ達には不利すぎて負けたよ。そして女神を保護するとか言って、妹が連れ去られた」


 その声音からは、後悔や憤りが感じられた。きっとディサエルは妹の事をとても大切に想っているのだろう。

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