「こちらが、専用ルームとなります」
フローの案内で、たどり着いたのは綺麗に整備された一室だった。デスク、オフィスチェア、ロッカーにトイレとシャワールームが設置されている。三人で使うには充分過ぎる程の広さがあり、仮眠室まで完備されている。
「感謝する。フロー曹長」
ロディが素直に礼を告げると、フローは敬礼して去って行った。それを見届けると、室内に入った三人はそれぞれ自分の時間を過ごす事にした。ロディは資料をまとめ、シャオは仮眠室に潜りこむ。
アイクは少し悩んだ後、自分用の席に座り、顔を伏せワイヤレスイヤフォンを装着して音楽を流す。日本に行った時に仕入れたJ-POPと呼ばれるジャンルの曲だ。故郷にはないテンポが気になり、買ってみたのだ。
そのまま意識を手放した――
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物心ついた頃だったか。
アイクは既に児童養護施設にいた。
実の両親を知らず、名も職員から付けられたもので、同じような子供達と過ごすのが普通だった。親がおらず、または捨てられて。
それが日常であり、当たり前の事だと思っていた。
だが、年齢が上がるにつれ、違うのだと知った時……衝撃だった。
そして、実の両親の事が気になり、その想いがこじれていくのが嫌で、かつ、それと同時にある想いに溢れた。
――自分と同じような境遇の子供を減らしたい。
そんな頃だ。
カタストロイが現れたのは。
その惨状にショックと怒りを覚えたアイクは、軍へ入隊をしたのだ。
だからこそ、シャオの存在を知って――
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「アイクー! 昼めし、らしーぞ!」
近くから響くシャオの声で覚醒したアイクは、複雑な表情で彼に視線を送れば、不思議そうに首を傾げているのが見えた。
「起きましたから、少し離れてもらえますか?」
「んー? 起きたなら良かったぞ!」
満足そうにシャオはアイクの傍から離れて行った。彼の後ろ姿を見ながらアイクは思う。
(納得いかねぇんだよ……カタストロイに対処するためだけに、人体実験したなんてよぉ?)
シャオジェン・レェリャン――とある軍の被検体として、様々な非人道的実験を受け……人格崩壊をしてしまった青年だ。
自分と少ししか年齢の違わない彼が、そこまで追い詰められ、捨てられたという事実が赦せない。
それを知った上で、トロイメライ戦隊に隊員として置いている事も納得は未だにいっていない。
だが、彼が選んだのなら、口出しする権利はない事も分かっている。
故の、距離の取り方。
どうにも、上手く整理出来ない自分の心を、ぶつけたくない。
(ま、今はそれは置いておくか……)
複雑な心境を悟られないように、アイクは先に食堂へと向かったロディとシャオの後を追ってルームから出るのだった。