アメリカ合衆国、西海岸付近。
そこにある教会で、フェリナ・チェニーナは一人祈りを捧げていた。
帰宅すれば、夫が優しく出迎えてくれるだろう事実が嬉しいと共に、今の現状を嘆いてもいた。
それは……。
「貴女がフェリナ・チェニーナ夫人ですね?」
こじんまりとした教会の扉が開き、一人中に入って来た。左目が隠れるボブカットの銀髪に碧眼のその人物は、静かにフェリナに近寄り名乗る。
「私が依頼を受けた探偵のロディ・シュタインと申します。それで、ご依頼の件ですが……受けさせて頂きたいと思います」
「本当ですか? ありがとうございます。その、本当は……きっとアルプ機関に連絡した方がよろしいのでしょうけれど……」
アルプ機関……対カタストロイ特殊専門機関の名称であり、
だが、そこに通報するのには躊躇があった。
何故なら、親友であるリネット・アーデンに
彼女、リネットが
西海岸は暑いというのに、焦げ茶色のロングコートに身を包んだロディは、静かに頷いた。
「友だからこそ……というのは理解できます。後は私にお任せを」
「はい……よろしくお願いいたします」
ロディに促され、フェリナは教会から一足先に出て行く。自分の祈りが届きますようにと切に願いながら。
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帰宅すると、夫のアダムが胸を広げて出迎えてくれた。その胸に飛び込み、互いにハグをかわす。この時間が永遠に続いて欲しい。
そのためにも……。
「リネット……ごめんなさいね……」
罪悪感を抱きつつも、自分達の平穏を守るための苦渋の決断。
赦してはくれないだろう、親友の顔を浮かべながらフェリナは時計に視線を向ける。
時刻は十二時半。
昼時である事に気づき、急いで調理にとりかかるのだった――。
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その頃。
調査を依頼されたロディは、ある場所へと赴いていた。
古めかしい二階建ての建物内に入ると、静かに階段を上がって行く。目的は一つ、情報の精査だ。
「遅かったですわね? 待ちくたびれましたわ」
そこにいたのはゴシックロリータ服に白衣を着た、薄緑色の長髪と瞳をした若そうな女性だった。睨みつけるような、咎めるような視線を気にする事なくロディは口を開く。
「ナディア。そう言うという事は、何か動きがあったと見ていいんだろうな?」
「当然です。入手された情報の精査はまたこれからとして……今までのデータをまとめておりましたの」
「その結果は?」
「真っ黒もいい加減にしてほしいくらいの……黒でしてよ?」
言い切るナディアの瞳には、強い怒りが込められていた。