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第4話 夢想の原罪

 付近の建物を気にすることもなく、疑似怪獣ハイ・カタストロイロンウェーは尻尾を振り回して光線を放ち続ける。


「コイツ……充填ってのが無いのか?」


 普通、エネルギーを消費して攻撃する場合……充填時間が多かれ少なかれ必要になる。実際、ユリシーズの愛機エルプズュンデもそうだ。杭打機ゲベート・ナーゲルを再度使用する時には、タマを充填しなければならない。

 だが、ロンウェーの放つ青い光線にはタイムラグがない。これだけ連発しているというのに、エネルギー切れを起こしていないのだ。

 それは大きな違和感だった。

 全長を十五メートルは超える巨体を維持するのに、どれだけのエネルギーが必要か想像に難くない。それなのにも関わらず、ロンウェーにはエネルギーを温存するという考えがないのか……今なお放ち続けている。

 それを器用にかわしつつ、ユリシーズは逆転の一手が来るのを待っていた。


「そろそろだな……喰らえよ!」


 彼が静かに呟いたと同時に、は上空から降って来た。

 高速で現れた……巨大な十字架型複合兵装クロイツ・クリンゲは、ロンウェーの頭部に直撃し貫いた。頭部がボトリと落ち、よろめくロンウェーに一直線にエルプズュンデを前進させると、杭打機ゲベート・ナーゲルで腹部を貫く。

 その衝撃で横倒しになったロンウェーだが、それでも尻尾のドリルを回転させ、次なる攻撃を行おうとしていた。


「中々しぶといな……だが!」


 傍で佇む十字架型複合兵装クロイツ・クリンゲを手に取ると、十字の長い部分をロンウェーに向け、させた。細い部分と、開いた部分との間にエネルギーが充填されていく。


「さぁ、終いにしよう……いけぇぇー!!」


 ユリシーズが叫ぶと同時に、白い光線が十字架型複合兵装クロイツ・クリンゲから放たれた。直撃を受けたロンウェーの身体が崩れていく。最期の抵抗か、ドリル部分を振り回し小さな青い光の弾を放つが、エルプズュンデに当たる事はなく……塵となって霧散して行った。

 疑似怪獣ハイ・カタストロイロンウェーが完全に消滅したのを確認すると、ユリシーズが通信を入れる。


「こちら3疑似怪獣ハイ・カタストロイの消滅を確認。これより帰還する」


 ユリシーズ・バーレイ。

 ――その正体は対カタストロイ専門の特殊部隊、トロイメライ戦隊の構成員の一人である。


『やぁ、お疲れ様だよ~? 君。さて、戻ったら話したい事があるんだ。頼んだよ?』


 お茶らけた若い男性の声に、ユーリと呼ばれた彼は深く息を吐き答えた。


「了解した、レイン博士。帰還次第詳細を頼む」


『勿論さ~。待っているよ!』


 そこで通信が終わり、ユリシーズことユーリは静かに十字を切る。


「ミスタートキトウ。あんたの魂に神の救いがあらんことを。アーメン」


 多神教で有名な日本だが、それでも神の加護は届くだろうと判断しているユーリは、再度祈りを捧げると静かにエルプズュンデを動かして帰還する。目指すは、日本での活動拠点だ。


(しかし、トロイメライ・エルプズュンデ――夢想の原罪か。機体としちゃあ好みだが、ネーミングセンスはもいいとこだぜ)


 愛機の命名に未だ不満を抱きつつ、それでも戦う彼の想いを知る者は――いない。

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