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第2話 事態は動き出す

 新任英語教師、ユリシーズ・バーレイが赴任して来てから二週間後。

 安城美為あんじょうみなれは、いつも通り校内の中庭のベンチに座り昼食を取っていた。昼休みはいつもここだ。人気ひとけのない静かな場所である。

 というのも、美為は生まれつき身体が他人より弱く、クラスメイト達から少し距離を取っているためだ。

 そんな彼女の癒しは……。


「おー安城、お疲れさん。今日は特に暑いだろう? 体調は大丈夫か?」


「時任先生。ありがとうございます、大丈夫です。特に、最近調子が良いんですよ。先生が教えてくれたのおかげですね」


 素直にお礼を告げる彼女に、時任が口角をあげて嬉しそうに笑う。


「そうか、良かった良かった! お前には合うと思っていたんだ!」


「凄いですね。先生、保健の担当じゃないのに……」


「そりゃあ、なんたって先生には頼もしいがついているからな!」


 時任の言動にちょっとした違和感を覚えた美為は、軽い気持ちで尋ねてみた。そう、本当に軽い気持ちで……。


「先生の仰るお方ってどんな凄い人なんです? 私もお会いしたいです」


「本当か安城! 本当……お前ならそう言ってくれると思っていたよ……あぁついに! ついにこの時が!!」


「この時がって……先生大袈裟すぎません?」


 クスクス笑いながら時任に微笑む美為に、だが彼は真剣な声色で答える。いつものような……明るさもなく。


「いいや……大袈裟なんかじゃないさ。いよいよ、ここにも来られるんだ……破滅が……終わりが」


「せ、せんせ……い?」


 明らかにおかしな言動の時任に、流石の美為も不安を覚えて心配そうに様子を伺うと……突如時任が笑い出した。とても大きい声……学校中に広がるような勢いで。


「あははは!! そうさ! ここが終わりの……始まりなんだ……そして安城、次はお前が伝えるんだ! 終焉をなぁ!!」


「い、意味がわかりません……せんせ、い……きゃぁぁぁぁ!?」


 美為が悲鳴をあげ、膝に乗せていた弁当箱が落ちるのも気にせずベンチから立ち上がり、後ずさって時任から距離を取る。彼の身体が融解し始めたからだ。

 不気味な現象を前に立ち尽くす美為に、時任が腕を伸ばす。本来なら届かないはずの距離だが、腕が不自然に折れ曲がりながら伸びて迫って来る。


「ひっ……!」


 小さな声を漏らし、動けなくなり地面に尻もちをついた美為だったが、腕が彼女に触れる事はなかった。

 弾丸の音がして、時任の腕が吹き飛ばされたからだ。


 二人して視線を銃声のした方へ向ければ、そこには新任のユリシーズが拳銃を手にして立っていた。彼は慣れた手つきで弾丸を時任の身体に撃ち込んで行く。


「きゃぁぁ!!」


 恐怖で再度悲鳴をあげる美為の目の前で、時任は姿が変わって行く。融解していたはずの身体は人の骨格から無機物に変異し、どんどん巨大化して行く。その光景を見て、美為は信じられない様子で言葉を呟いた。


……」


 人類のの名を呼ぶ彼女に、時任だったモノの声が響く。それはノイズ混じりの不快な響きだ。


「あ、あ、あアンジョウ……オマエモ……シュウエンニ……」


「させねぇよ」


 そう答えたのはユリシーズだった。彼は鋭い眼差しで時任を……カタストロイを睨みつけると、誰かに向かって叫んだ。


「アイク! 彼女の保護を! 俺はを呼ぶ!」


 気付けば、美為は見知らぬ誰かに抱きかかえられていた。見上げれば、青いオールバックの髪に褐色肌の男性の姿があった。こちらもユリシーズと同じく若そうで、青年と呼べるくらいの姿に思えた。

 アイクと呼ばれた青年は、美為を抱きかかえたまま猛スピードで徐々に巨大化していく時任だったモノから離れて行く。


「後は頼みましたよ~先輩?」


「うっせ、わかってる! 相手は俺だ、かかってこい……! コード、トロイメライ! コール! !!」


 右腕に着けている端末にそう告げると、弾丸を放ちながらユリシーズはアイク達と別ルートで中庭から走り去る。

 ――脅威が目覚めようとしているのを、止めるために。

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