2XXX年。
極東の地、日本。
都立
季節は七月。
日本でこの時期に教師の異動があるのは比較的珍しい。そのため、あらゆる噂が生徒達の間で飛び交っていた。
「はいはい、気になるのはわかるけどちゃんと授業を受けなさい」
ざわつく二年B組の教室内を鎮めたのは、担任である
そんな彼に恋する女子生徒も少なくない。
――
「気になる英語の先生については、この後の授業でわかるからな! 本来は、学校集会を開いて……という所なんだが、このご時世だからな! 授業の度に挨拶する事になっているんで、みんな楽しみにな! くれぐれも、悪さなんてするなよ?」
悪戯っぽく笑うと、時任が教室から出て行く。それを見送ると、生徒達は再びざわつき出した。
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「あー……俺が今日から英語の担当になった、ユリシーズ・バーレイだ。よろしく頼む」
やや気だるげな口調で自己紹介を始めた新任の英語教師は、とても若い男性だった。やや長めの黒髪に緑色の瞳が眼鏡の奥からでもわかる。顔立ちが綺麗な教師の登場に、女子生徒達から黄色い歓声が上がる。
当の本人であるユリシーズは、あまり気にしていないのか早速授業に取り掛かろうとしていた。
「先生! 彼女はいますかー?」
クラスのお調子者の男子生徒がからかうように質問するが、新任教師はあっさりと諫めた。
「授業に関係のない質問はノーだ、ミスター
名前を既に知られている事にも、いきなり授業で解答を迫られた事にも驚いた倉島は目を瞬かせながら答えあぐねる。その様子に、クラスメイト達から笑いが飛んだ。
顔を赤くしながら、素直にわからないと答えた倉島にユリシーズが声をかけた。
「次からは気をつけろ。それと、この問題はテストに出すからな?」
言われて、慌てて生徒達がノートに英文を書き写す。その様子をユリシーズが見守っていた。
いや、表現を変えれば観察していた。
その理由を彼らが知るのは、もう少し後の事である。
*****
「いやー、バーレイ先生初授業お疲れ様でした!」
教員室に戻ったユリシーズに、時任が爽やかな笑顔で缶コーヒーを差し出して来た。それを少し遅れて受け取ると、ユリシーズが答える。
「ありがとうございます、時任先生」
「しかし、この時期に新任なんて本当に珍しいんでね! 実の所……我々も気になっているんですよ。前任の先生、何かあられたんです?」
ひそひそと尋ねて来る時任に、ユリシーズは冷静に返す。まるで、最初から答えを用意していたかのように。
「I can't say that, especially to you.」
「え? な、なんて? いやー意地悪ですねぇ……日本人が英語に弱いのご存じでしょう?」
苦笑する時任にユリシーズが何か答えようとした時、彼の携帯端末が鳴った。
「すみません、
「それは大事かもしれませんね、どうぞどうぞ」
時任から許可を得て、ユリシーズが端末を確認する。その内容を見たユリシーズは深く息を吐くと、端末を閉じ、なんでもなかった旨を時任に伝えると次の授業の準備を始めるのだった。
――彼らの日常が崩れるまであと××日。