「はい、ご来店ありがとうございます! 依頼の発注ですか? それとも受注でしょうか? もちろん、酒場の利用でも大歓迎です!」
入って早々、和やかな女性がもの凄い勢いで俺に張り付いてきた。
これが、冒険者ギルド……。受付嬢のレベルが高いと名高いが本当にそうだった。
整った白髪に、笑顔の絶えない表情が非常に美しい。
「えーっと、受注です」
その圧に若干押されつつ、俺は返事をする。
ちらりと、受付嬢さんから視線をそらしてギルド内を見回してみた。朝早くだというのに、結構な人で賑わっている。
見たところ、依頼を発注しに来た人よりも冒険者の方が多いようだ。
俺の視線の動きを察したのか受付嬢さんがしっかりと俺の視界に収まって笑顔を見せつける。
「なるほど! では、冒険者証の確認を行ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
俺は今朝貰ったばかりの冒険者証を受付嬢さんに渡した。
丁寧な所作で受け取って、それを確認した彼女はニッコリと笑って一礼する。
「申し訳ありません。メイム様。依頼を受注して頂く前にメイム様を
「俺を探してる……?」
「ええ、はい。あちらのお客様です」
俺を探すって、どうして?
冒険者として活動も初めてない、そもそも偽名で経歴も親父たちが用意した偽物のもの。知り合いなんているはずがない。
疑問に思いながら受付嬢さんが指し示す方向を見れば、テーブルを独占している5人組が見えた。
全員が実力者のように思えるが、一際目立っていたのは鎧で身を包んだ巨大な騎士。当然だが騎士も知らないし、他の人も見覚えがない。本当に何の用なんだ?
それに、何か揉めているようにも――。
「テメェ! 何つった!?」
と、見ていたら騎士が叫んだ。
怒号が店内に響いたからか、俺や受付嬢さんだけでなく店にいるほとんどの人が視線を5人組に向ける。
「だから、君にはもう付き合い切れないと言ったんだ」
「あぁ!? テメェらがオレをパーティーに誘ったんだろうが!」
「君がここまで酷いとは知らなかったんだよ。仲間のことを考えない。それを指摘すると怒り狂う。そんなの、パーティーにおけるわけないだろ!」
「は? 雑魚の言うことなんざ聞くわけねぇだろが。そういうことか、冒険者ギルドで話を切り出せばオレが大人しく言うことを飲むと思ったのか?
騎士が叫んで力任せに机を殴れば、机は勢いよく砕け散った。
最早、目を剥く膂力。一体何者なんだ……あの騎士、いや暴君は。
というか、止めないとヤバいんじゃ……?
そう思って受付嬢さんを見るが、ニコニコと笑っているだけで仲裁をする素振りもなかった。
他の腕自慢じみた冒険者たちも静観を決め込んでいる。
マジか……。
「テメェ、ここでミンチにしてやる。覚悟しやがれよ!」
「ひっ」
「もう少し落ち着いたらどうだ?」
誰も止めないようだったので、俺が声をかけた。
もし目の前で一方的な蹂躙が起こったら目覚めが悪い。それに、あのテーブルの誰かが俺に用事があるようだし。
その用件が終わらないと俺は依頼を受注できない。
取り敢えず、騎士さんには落ち着いて貰おう。
「んだテメェ! 関係ねぇ奴はすっこんでろ!」
本日二度目の怒号。兜で覆われているというのに、凄まじい声量と怒りだ。
思わずたじろぎそうになるが、ここまで来て身は退けない。腹を括って、俺は騎士を見据える。
「そこのテーブルの誰かが、俺に用事があるらしい。依頼が受注できずに困っているんだ。先に、こちらの用件を終えても?」
「はっ……テメェが
「え?」
騎士がゆっくりと立ち上がる。思わず、俺は騎士を見上げた。
デカい。
2mはあるんじゃないか? そう思わせるほどの威圧感。次いで、身体自体も相当に巨大だ。
「はい。こちらがメイム様ですわ」
隣に立っていた受付嬢さんが騎士にそう告げた。
そしてそのままの流れで俺の方を見て、今度は騎士のことを話す。
「そして、こちらがメイム様を探していた騎士。クラノス・アスピダ様ですわ。この国で11人しかいない
「……!」
Sランク……!?
そりゃ、親父と同格の冒険者だぞ!
大貴族並の扱いを受ける国の英雄が、目の前にいるって……?
「はっ、ビビったか? まぁ無理もねぇ。おいメイム、オレとケンカしよーぜ」
こうして、俺はAランク冒険者と刃を交えた翌日に、Sランク冒険者に絡まれてしまった。
どうして俺はこう、面倒事に巻き込まれてしまうんだろうか……。というか、Sランクの冒険者なら、最初からそう伝えて欲しい。
殺気立つ騎士を前にして、俺は自分の軽はずみな行動を呪うばかりだった。