「キリア。お前のような無能はこのアルファルド家に必要ない。出て行け」
「え……」
青天の
久しぶりに聞いた父親の声は、いつものように
「代々大陸最強の魔法使いを
「確かに俺は親父やミアには及ばないけど、なんとか追いつこうと思って毎日勉強と試行錯誤を――」
「――黙れ」
親父に
「お前がアイツの才能を引き継いでいたと知った時は――心底喜んだものだが、何もかもを半端に修めることしかできないとは」
「……」
ショックだった。
親父にそんなことを言われたこと。親父が母さんのことをアイツと呼んでいること。両方が。
母さんは俺とミアが幼い頃に亡くなった。優しくて、こんな俺でも愛してくれた。そんな母さんが大好きだったが、親父は特に気にかけている様子もなかった。
親父にとって、大切なのはより強力な
だから、母さんも親父にとっては強化パーツに過ぎない。
その才能を歪に受け継いでしまった俺は使えないパーツ、つまるところゴミだった。
全ての魔法系統に対する適正を持つ。
それが、俺の特殊な才能。生まれついて与えられたもの。
どれだけ優れた魔法使いでも、全ての魔術系統を納めることはできない。例えそれが、最強の魔法使いとして知られる親父でも……だ。
歴史上、そんな希有な才能を持っていたのは俺と母さんを含めても両手の指で数えるほど。そんな才能に俺は選ばれた。
ただし当然代償もあった。それはあらゆる魔法系統を極められない……という呪い。全てを手に入れたが故に、全てを手に入れられない。でも、母さんにはそんな呪いはなかった。
だから俺は一層疎まれた。
ほとんど完璧な妹に、たった一つの、そして最も必要な才能を分けてやれなかったゴミ。それが俺という人間への評価だった。
「で、でも」
俺が必要のない存在なのは自覚していた。
親父とミアは本邸に住んでいるのに、俺は別邸で一人ぼっち。親父は俺の顔を見る度に苛立っていた。最初こそ暴力があったが、次第にそれもなくなって――ただ関心だけが失せていった。
家族の縁なんて、最初から存在しない。
でも。
それでも俺は悲しかった。
切りがたい縁が、そこにはあった。
「俺は俺なりに頑張ったんだ親父。今すぐは無理でもいつか、アルファルド家の末席に加わるくらいは」
俺には時間だけがあった。
貴族としての立ち振る舞い、魔法の基礎、様々な帝王学。それらを仕込まれ続けたミアと違って最初から見放された俺には、時間はあった。時間しかなかった。
俺と同じ、全ての魔法系統に適正を持った母が読んだ書物をあさった。そして、自分で実践もした。
最初こそ見よう見まねだったが、形になってきたと自分でも思っている。もっと時間さえあれば、家督を継ぐことは無理でもアルファルド家の一員として恥ずかしくない程度にはなれる。
そう確信していた。
だから俺は、それに縋った。
ぼろ切れのような望みに。
「兄様、素直に受け入れくださいませんか? いくら出来損ないの兄様だとしても……いえ、もう兄様ですらないのでしたっけ?」
俺の背後から芯の通った声が聞こえてきた。かつん、かつんと靴の音を響かせて――ミアが俺の隣に立つ。
母さん譲りの銀色の嫋やかな髪がふわりと舞った。
「もう、覆らないのか?」
「……父上に変わって、私が告げましょう。キリア・フォン・アルファルド。貴方は我が一族の恥です。清く失せなさい。さもなくば、私がここで消し炭に変えて差し上げましょう」
そういって、人差し指を突きつけるミア。
とぷん、彼女の魔力が部屋に満ちる。
形容しがたい悪寒が、俺の身体を突き抜けた。
彼女が持つ特別な才能……それこそが“無限の魔力”だった。親父は、全ての魔術適性と無限の魔力を以て次世代のアルファルドを完成させようと目論んでいたのだ。
ともかく、ミアは本気だった。
もし俺が無駄な問答を重ねれば、容赦なく烈火が俺を襲うだろう。だから、俺は下唇を噛んで、拳を握り絞めて、首を縦に振ることしかできなかった。
「キリア・フォン・アルファルドは死んだ。お前は今からメイムだ」
「……」
「荷物をまとめろ。服と、私物くらいは持っていけ」
「……」
「不服か? 本来ならばお前はもう死んでいた筈なのだ。ミアに反対されて考えを改めたが」
「兄様の穢らわしい血で汚れるくらいなら、どこぞで野垂れ死ぬ方がいいでしょう?」
目の前で繰り広げられるのは、血の繋がった家族に向けられたとは思えない会話。
俺は一刻も早くここから抜け出したかった。振り返って、最後の会話なんて交わさず俺は退室した。
家も、家族も、居場所も、名前も。何もかもを失った俺は、ただ居心地の悪いここから逃げ出すことしかできない。
◆
この物語は、後に『無限の魔術師』と呼ばれる一人の男の物語。
そして彼が失ったものを取り戻す戦い。
落ちこぼれの成り上がりだ。