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第36話

「明日、急遽国王陛下主催の立食パーティーに招待されませんでした? 貴族全員参加と聞いていますがあまりにも急なので気になったのですが」

「ああ。俺の家も招待されたぞ。なんでも大事な話があるらしいな」

「はい。普通にパーティーをして何かに直接関わりのある人だけ残るように言われるみたいですが、何の話でしょう?」

「あーそれ、俺も招待されてるよ。エルフ族も魔族も精霊族も何人かは呼ばれるそうだねぇ」


 精霊狩りが始まって約一ヵ月半。いまだに被害はゼロ。無駄だと理解したのか精霊を狩ろうとする奴も減ってきた。それで学園が明日から夏休みに入るから、このタイミングで立食パーティーを開くように陛下にお願いした。犯人のこととかはまだ言ってないけど二つ返事で了承してくれた。


 こんな急な話、国中を混乱させることになるのに快くお願いを聞いてくれたから助かった。


「なんで貴族じゃないお前が招待されてるんだ?」

「さぁね。気になるなら国王陛下に直接聞きな。大した理由はないよー」

「……そうか」

「あれ、珍しくランスロットくんが大人しい。どうしたのー? 頭でも打った?」

「やっぱりナギサ、お前俺にだけ失礼だな!」


 だって面白いじゃんね、ランスロットくん。俺だって揶揄いがいがない人にまで同じことはしないよ。つまらないからね。玩具扱いしてるって言われたらそれまでなんだけど。


「最初より大人しくなってきたのはランスロットもナギサ様を認めてきていると言うことでは? と言うか、結構最初から認めてたくせに最初があんなでしたから素直になれないんですよ」

「セインも余計なこと言うな」


 本当のことですよね? と言うセインくんもランスロットくんの反応を楽しんでるみたい。他の人相手だと普通に接してるから俺と一緒にいるとき限定の態度だろうし、セインくんも注意するのを諦めたかと思えば今度は揶揄って遊ぶようになった。じゃなくて……それよりね、君たちエリオットくんの存在忘れてない? 一応先輩だよ? 気まずそうにしてるんだけど見えてるかな?


 今は食堂で昼食を取ってるんだけど、最近では同学年に友人がいないらしいエリオットくんとも一緒に過ごすことが多い。気を許している相手なら人数は多い方が楽しいよね。でも気まずいのを紛らわそうとしてるのか、俺の髪をぼっさぼさに掻き乱すのはやめてくれない? 髪が長いわけではないから直さないとーとかそういうのじゃないんだけどね、頭が揺れるんだよ。結構激しいから酔いそう。


「ねぇエリオットくん。ちょっとその手を離してよ。ご飯が食べられないんだけど……」

「ナギサ、俺は平民でさらにお前ほどの図太さはないんだよ」


 『だからこんな状況で話に混ざる度胸はないが、俺はもう食べ終わって暇だからな。授業まではまだ時間あるし』、と続ける。


 だからと言って俺の頭を揺らさないでほしい。ぼさぼさでもぐちゃぐちゃでも別に何でも良いけど……食事中なんだよ、こっちはさ。


「男の髪を撫でまわして楽しいの?」

「いや、まったく?」

「じゃあやめようよ!」


 楽しくないのになんでやるのかな? 楽しいならまだ良い……ことはないけど意味もなくされるよりはマシ。でも楽しくないのにやらなくて良くない? どちらにとってもマイナスでしかないと思うんですけど。


「……漫才でもしてるのか?」


 え、この世界に漫才なんて言葉あるんだね? 初めて知ったんだけど……


「そんなわけないでしょ。エリオットくんが二人の会話に混ざり辛いからって俺の髪で遊ぶんだよー。俺、食事が取れないからさ、エリオットくんも話に混ぜてあげてよ」

「ちょっ!」

「ああ、それは悪かったな。一緒に話そう。で、お前はさっさと食べ終われ。遅いんだよ」

「俺のせいじゃないと思うんだけどなぁ」


 すーぐ俺のせいにしてくるのやめてよ。今日は邪魔されてたから遅いんだよ。


 それに遅いって言ってもね、君たち三人の食べる速さがおかしいんだよ? 大体いつも俺が最後になる。何度でも言うよ。俺が遅いんじゃなくて、三人が速いだけ!


「………やっぱり仕草が綺麗なんだよな……公爵家の出である俺でも格が違うと感じるんだが。どんな生活しているんだよ。実は王族だったりするか?」

「同感です」

「俺も思った」


 そうだね、間違ってはいない。精霊の、という言葉が先に来るけどねぇ。それと精霊に王族とかはないから族じゃなくてただの『王』にはなっちゃうけど。


「そんなわけないでしょ。君たちにだけは言われたくないね」


 何を言われても誤魔化すしかないよね。仕草が綺麗って言っても、そんな大層なものではない。たしかに口調が適当な分立ち居振る舞いは綺麗に見えるよう気を付けてる。だけど上には上がいるものだからね。


「おまたせ。俺も食べ終わったから行こ」

「午後からの授業って」

「──あの、お話し中すみません。先生から伝言なのですが、明日は国王陛下主催の夜会があるので午後からの授業はなくなったそうです。ですので皆様自由にご帰宅くださいとのことです」

「そうなのですか? ありがとうございます」

「いえ。私はこれで失礼します」


 思わず隣にいたエリオットくんと目を見合わせちゃったよ。すごいね、ベストタイミングだ。皆に報せ回ってるようだし大変だね。手伝いはしないけど心の中で激励でもしておこう。


「……だそうですね。今からどうしますか? 僕は普通に帰宅しますが」

「俺も帰る。明日の準備しなければいけないからな」

「俺は妹と一緒に帰るので一年の教室に寄ろうと思います。先に帰っていただいて結構ですよ」

「なら俺も。夏休み中、予定が合えば遊ぼうね。じゃあまた明日」


 俺も準備がある。明日の主役は俺……ではないね。パーティーの主役は俺だけど、パーティー後のの主役は俺じゃない。むしろ言動だけ見れば悪役になるかもね。事情を知らなければの話だけどさ。


 明日のパーティーが貴族全員参加なのは他の種族や高貴な人がいても違和感ないようにするためだよ。ジェソンさんが配慮してくれた。この件がすべて片付いたらアルフォンスくんとはお別れだね。もちろん一生のお別れってわけではないから会いに行こうと思えばいつでも会えるんだけど、今までほど仲良くはしてもらえなくなるんじゃないかなって話。


 やっぱり子供は好きだからさ、しばらく会わなくなって他人のようになったらすごく嫌なんだけどー。ショックだよ。………今のうちにあまり会えなくなってもよそよそしくならないよう、たくさん構っておこ。

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