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第35話

「俺はね、今日一日試験だったんだよ。全科目満点の自信あるよー」

「……ルー様が、『またナギサ様がさぼってますね』と言ってましたが」

「ルー! 余計なこと言わないの!」


 せっかく真面目にやった風に言ったのに白けた目で見られたんですけど……可愛い子供のこの視線は結構ショックだよー?


「事実じゃないですか。自分が行きたくて学園に入ったのではなかったのですか?」

「合ってるけど間違ってるね。面白そうだし暇つぶしになると思って入っただけで、別に勉強したいわけではなかったし。そんなの宮でも出来るじゃん。でも筆記はほんとに満点の自信あるから。他の試験をさぼった分筆記で点取ってるから問題ありませーん」


 さぼったから最初に言ったように全科目満点は無理なのは当然。でも筆記だけしか受けてなくても総合順位は高いと思うよ。


 まあ二学年の人数が三桁ある内の二十位以内に入れたら上々って感じかなぁ……


「どれだけ採点と集計が早いの? って感じだけど、明日には試験結果が張り出されるらしいからね。帰ったらどうだったか教えてあげるよ」

「楽しみにしてますね!」

「あまり期待はしないでね。ほら、そろそろ夕食にしよ」

「はい。今日の夕食もみんなで作ったのですよ! 水の精霊様たちの住処なだけあって魚は新鮮でとても美味しいですよね。今日も魚料理が多めです」

「そっか。楽しみだね」


 アルフォンスくんがこの宮に来て、精霊達は俺の分もほぼ毎日を作ってくれるようになった。俺は食べなくて良いけどせっかくだからね。でもいらない日は事前に伝えてある。一人で食べるよりみんなで食べる方が美味しいから、全員ではないけど精霊たちも呼ぶんだよ。

 アルフォンスくんが言ったようにここで食べる魚はすごく新鮮。泳ぎに行った精霊たちがついでに取ってきてくれるから最近では魚料理が多い。


 魚は体に良いしね。調味料とかは精霊たちに調達してきてもらって、たまに和食っぽいものも作ってもらうようになった。味を知らないから作るのに苦戦してるようだけど、口には合うみたいだね。アルフォンスくんも美味しいって言ってたしー。


 和食を作るのに、例えば醤油はないけど大豆はある。だから醤油を一から作る。みたいなことをやってるからすっごい時間がかかるんだって。特徴を言えば精霊たちはすぐに覚えてくれるからそれでアルフォンスくんと試行錯誤しながら作るって感じらしい。手間をかけさせちゃって申し訳ないねけどたまには食べたくなるよね、日本人だから。


 少し時が経ち、試験の翌日。採点と集計が終わったらしく、昼には各学年の総合順位と教科別順位が張り出された。


「ナギサ様、ランスロット。試験の結果を見に行きましょう?」

「そーだね」

「ああ。今回こそはセインに勝てていれば良いんだが……」


 セインくんは頭が良いけど、ランスロットくんだって負けてない。ダンスとか乗馬とか、筆記以外も二人は得意らしいんだけどどうなんだろうね。答案用紙はあとで全員返されるらしいんだけど、順位は上位五十名のみ表記される。俺の名前も載ってたら良いなー。


「あ。あれじゃない?俺は……筆記は満点だね。他は当たり前だけど点数なし」

「え……ま、負けました……ね。総合点は一位ですが筆記は十五教科で三百二十点落として二位………ん? 満点!?」

「は? 筆記満点ってお前……」

「え? な、なに?」


 怖いんだけど。そんなにびっくりするー? しかも何故かすごい視線を集めてるんだけど。筆記は満点でも他は点数ないよ、俺。総合点の順位も十七位だし……


「この学園が創立されて以来、筆記で全教科満点を取った人は一人もいませんよ……問題の一部はかなり難しく作られていますから。さすがですね」


 うそでしょ。先生たちどれだけ意地悪なの? でも、たしかに割と難しい問題もあった。日本と同じようにメインの九教科、加えてこの学園はほとんどが貴族だから帝王学とか経営学とか、そういう系の教科もある。それと各種族のこととか……

 少なくとも、俺があまり手を付けてこなかった教科は少し苦戦したように思う。良く考えてみたら十六歳の生徒に出す問題ではないかもね。


「俺は五百十点落として三位……また負けたな。しかもセインだけでなくかなりの差をつけてナギサにも負けた」

「まあ俺の点数は偶然だろうし、そんなに気にすることでもないよ。筆記だけでも十五教科、千五百点満点中それだけしか落としてないのなら十分すぎるでしょ」

「いや、あの難易度の試験を授業も聞かずに失点なしだったお前にだけは、絶対に言われたくないんだが。……次は絶対負けないからな!」

「頑張れー」

「やっぱ煽ってるだろう、ナギサ!」

「そんなことないって」


 だから捻くれすぎだよ。そのまま受け取れば良いのにー。俺はちゃんと応援してるんだよ?


 その時の俺は気付かなかった。これ以上ないくらい驚きに目を見開き、俺のことを凝視していた一人の生徒に。もっと周りを気にしていれば良かったと後ですごく後悔することになるなんて、思ってもみなかった。


 ◇


「くそっ! 王太子殿下はどこに行ったんだ!? これでは呪いの重ね掛けが出来ないではないか! 苦労して精霊を手に入れたと言うのに……!」

「それにしても静かすぎない? あいつよりも強い精霊なら仲間が殺されたことの気付く奴もいるかと思っていたのに不自然なぐらい何も無いんだけど」

「気にし過ぎでしょう。精霊王は強いだけではないはずなのですが、三代目は馬鹿なのでは? まだ精霊以外の誰の前にも姿を現していないと聞きます」

「平和な時代を生きる精霊王はその程度ってことだろ。誰だ? 今代の精霊王は過去一強い、最強な精霊王だと言ったのは」

「弱いなら弱いで良いじゃないですか。目的を達成しやすくなります。そろそろ最後の仕上げと行きましょう」


 ───さあ、精霊狩りの始まりです。


 ◇


 ティルアード王国暦、七XXX年七月XX日。大きく歴史が動き出す───


 精霊狩りが始まった。だけど今のところ殺されたり捕まったりしている精霊はゼロ。精霊を殺せ、精霊をこの世から抹消しろ。かつては精霊の祝福を受けていたが取り下げられて逆恨みした者、精霊の存在を許さない者、ただ強い権威を持つ精霊を妬む者。色々あるけどそれぞれの種族の王は止めさせようと必死だからそんなに大規模ではない。


 だけど心配はいらないよ。そう簡単に殺されるほど精霊は弱くない。事情はどうであれ手を出そうとした奴には容赦しなくて良いよと俺からも伝えてある。


 それに、仮に精霊を亡ぼすことが出来たとして。この国どころか世界の未来はないだろうね。国の発展に必須な存在であるけどそれ以上に精霊が滅べばこの世界の生態系が壊れてしまう。ほとんどの人はその辺りもちゃんと理解してるみたいだけどね、やっぱり何も考えない奴はどこにでもいるもの。


 危険度が高いのは下位精霊。中位以上と違って一目で分かるし精霊の中では最も数が多く、精霊の中では弱い部類に入る。


 精霊殺しの呪いの犯人、それから精霊狩りの首謀者。どちらも同一人物。すでに特定は出来てるよ。断罪の舞台は派手にいこう。楽しみにしてて。精霊王の報復はどれほどのものか………ね?

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