精霊たちは飽きたみたいだから先に帰らせてあげることにしたよ。この人も精霊たちまで捕まえる度胸はなかったようだねぇ。まあ何をされるか分かったものじゃないもんねー。
「何をブツブツ言ってんだ? 怖くなったかァ?」
「あ、ごめんね? 攫っていいよー」
抵抗されないならやりやすくていいと考えたのか、それとも馬鹿だから何も考えていないのか、そのまま数人がかりでどこかに連れて行かれてしまった。時間かかりそうだし寝ちゃってていいかなーってしばらく寝てるとすごい衝撃を感じて、痛いなーっと思って起きたら牢屋みたいな……でも鉄格子とかじゃなくて窓がない薄暗い部屋に放りこまれてた。……正直、俺はこういう場所にトラウマがあるから嫌だ。だけど今と昔では状況が違うからまだマシ。
「……ここどこ? 二つくらい隣の町まで来たのかなぁ? 帰るのが大変なんだけど」
「ひっ……しゃ、しゃべった! あ……あなたも攫われちゃったの……?」
声が聞こえた方を見ると全部で十人くらいの人たちがいた。年齢は子供から大人、ご老人まで幅広く。だけどほとんどが女性。種族も人間、エルフ、魔族の精霊以外全種族捕まったみたいだねぇ……話しかけてきたのは人間の小さな女の子だった。この子はどうやら家族と一緒とかではなさそう。
「うん、そんな感じだよ。君も攫われちゃったの?」
「う、うん」
「名前はなんて言うの?」
「セナ……セナ・シュリー」
シュリー? 家名があるってってことは貴族かな? シュリー…どっかで聞いたことがある気がするんだけど気のせいかな。
「そっか、俺はナギサ。話せるならで良いんだけど教えてくれない? セナちゃんはいつからここにいるのー?」
「それは……」
聞いちゃいけなかったかな? というよりは、困ってそうな顔だけど……
「その子は多分覚えてないよ。あたしは結構前からいるんだ。その子がここに来たのは二日前。この中に家族はいないよ」
「あ、教えてくれてありがとう。そっかそっか、じゃあみんなに聞くけどここから出たいって思う?」
「当たり前だよ」
目が虚ろだった人も微かに光を灯した目で頷いてくれた。セナちゃんも彼女のことを教えてくれたお姉さんも、この場にいる全員が。まあそうだよねー。
「みんなちゃんと帰る場所はあるー?」
「あるよ。あたしが確認しておいたから間違いない」
「おにいちゃん……わたしたちのこと、助けてくれるのですか…?」
お姉さんがみんなの代わりに答えてくれて、セナちゃんも震えながら聞いてきた。怖かったよねぇ、こんな薄暗くて寒いところに閉じ込められて。俺が転生したのは夏だったけどもう半年経ってるから真冬だもんねー。まともに食事も与えられないと思うし。
「うん、助けてあげるよ」
「それはどうやって? 悪いけどお兄さんにそんな力があるとは思えない。明日には奴隷オークションがあるんだ。それまでに助けてくれるって言うのかい?」
奴隷オークションかぁ……そんなのがあるんだねー。本当に存在してるとは思わなかったけど、どうやって管理してるんだろうね? 人身売買は重罪なのに、一人でも逃げ出したらどうするつもりなんだろ。
「今からでも助けてあげられるよー。次に監視が来るのはいつかな?」
「今日はもうこないと思うよ。絶対とは言えないけどね」
「なるほど。俺たちを攫った人は全部で何人? 捕まえた方が良いよねぇ」