「そろそろ頃合いかな~?」
喋れるタイプの幽霊。正確には、浮遊霊として生きるユウは、面倒なことに僕へ憑りついている。
「頃合いって、単に飽きただけでしょ?」
ボールが行き交う度に、黄色い声が上がるコート。そこから離れて、退屈そうに「ふわぁあ」と欠伸をするユウを見て、僕はそんな風に思った。
「まさか、今から行くって言うんじゃないよね?」
続けて僕が思うと、ユウは満面の笑みで答えた。
「ご名答! さっすがヒロっ。じゃあ行こっか!」
ユウは他人の心の声を読むことが出来る。
表情や仕草から相手の心情を読み解くような読心術ではなくて、実際に耳で聞こえるような感じで、ユウの頭の中へと心の声が流れて来るらしい。言うならば、エスパーみたいな能力だ。
これはユウが幽霊だから備わっているわけじゃなくて、生まれつきなんだってさ。
「あ。この子、次はそっちの子を狙うかもね? あの子のことが好きみたいだから」
まぁこれくらいは、能力が無くても分かるけど。
ユウは互いに頬を染める僕のクラスメイトの2人を、微笑ましくも、どこか寂しそうな表情で眺めていた。
……もう。仕方がないなぁ。
「よし決まった!」
ユウはしたり顔でそう言うと、僕に向かって手のひらをかざした。
するとクラスメイト、それから空を飛んでいるカラスに、風そよぐ木の葉。僕らに流れていた時間が静止する。
正確には一時停止だけどって、そんなことよりも!
「ちょっとユウ! 今の顔、まさかわざと!?」
「へへっ、どうだろうね? さぁさぁ優しいヒロちゃん? 準備は整ったかい?」
「ばっか! ととと整ってな――」
「出発進行☆」
無情なユウの一言で、目の前に広がっていた景色が、もの凄い速さで僕の後方へと流れ始める。
まるで新幹線が僕のすぐ両脇を走り抜けていくような、そんな感覚だ。
「うわああああああーこれ怖いんだってばあああああああああああ! お母ぁぁさぁぁああーーん!!」