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第2話 ≪Love Heart≫バキューン♡

「だから、アクアの影武者になって、私とペアでダンジョン配信してほしいのだけれど?」


 2回聞いても意味がわからない。


 影武者? ダンジョン配信?

 アクア様は何を言っているんだろう。


「≪ミッカ≫は私の≪ドル箱ちゃん≫よね? いつもスパチャくれるし。……ちょっと少ないけど」


「あああああ、すみません、アクア様っ! 罰として子分のオークに襲わせてくださいっ」


 わたしはアクア様の前でジャンピング土下座をかます。


「ちょっと、冗談よ。やめなさいって……アクアのかっこうをして土下座なんて」


 ああ、そうだったああああ。わたしは今アクア様なんだったわっ!


「す、すみません……。実はですね……アクア様にわたしのことを覚えてほしくて、印象づけのためにわざと少額のスパチャを……」


「そんなことしてたの? 私、一度スパチャしてくれた人のことは全員覚えてるわよ?」


「さすがアクア様……。数億人の信者の名前をすべて……」


 かっこよすぎてますます好き。


「さすがにまだ億は行ってないわよ。うん、これまでの全員っていうのはちょっと盛ったわ。でもここ最近来てくれる人のことはもちろん全員わかるわよ」


 アクア様が照れ笑いを浮かべる。ううっ、かわいい。


「≪ミッカ≫は毎日配信に来てスパチャくれているけれど、わりと少額なことが多いから、あまり稼げない弱い冒険者なのかなと思ってたわ。完全に予想が外れたわ。まさかオークロードをソロ討伐できるほど強いなんてね。私の≪ドル箱ちゃん≫の中にこんなに強い冒険者がいて、ラッキーだわ」


「いえいえそんな……。オークロードのスキルブックが欲しくて通っていただけです。……ラッキー?」


 ラッキーってなんだろう。


「≪Summon The Orcs≫狙い? オーク召喚のスキルを手に入れるために? ますますいいわ~。気に入ったわ!≪ドル箱ちゃん≫の鏡ね」


「お褒めに預かり恐悦至極でございまするぅ」


 と、土下座しかかって慌ててやめる。またもやアクア様の美しいお顔を汚してしまうところでした。


「もはやコントね、それ。アクアの顔でそこまでキャラを崩されると笑っちゃうわ。≪ミッカ≫、私おもしろい人は好きよ」


 アクア様がお腹を抱えて笑い出した。

 わたし、褒められてる? 貶されてる?


「このままファンとの会話を楽しんでもいいのだけれど、まずはきちんと説明しないとね」


 アクア様が急に真面目な顔になり、こちらに向きなおる。


「≪ミッカ≫あなたに柊アクアとしてダンジョン配信してほしいの」


「その、ダンジョン配信ならご自身でやられたほうが……」


「実は私、柊アクアとしての活動のほかに、冒険者稼業も営んでいるのよ。どっちかというと、冒険者のほうがメインのお仕事になるのかな。≪エンタープライズ≫っていうギルドに所属しているんだけど、聞いたことあるかしら?」


「≪エンタープライズ≫って、あの――」


 ダンジョン攻略のランカーが集まるギルドとして超有名なところだ。冒険者をしていて知らないわけがない。


「いいわ、知っていそうね。私ね、そこでヒーラーをやっているのだけど、ずっと組んでる筋肉ムキムキマッチョどもに囲まれるのも、トップ層で攻略し続けるのも飽きてきちゃったのよ。そろそろ隠居して、かわいい女の子とペア狩りして、ダンジョン配信したいな~なんて」


「ダンジョン配信……ですか。えっと、わたし基本ソロだし、≪エンタープライズ≫のマッチョさんたちみたいにダンジョン攻略できるほどレベルも高くないです……」


 装備もオークロード特化型というか、今のところスキルストーンを手に入れることしか興味ないというか。


「いきなり実践投下したりはしないわよ。私も鬼じゃないわ。しばらくは一緒にレベル上げやスキル習熟に付き合ってあげるわよ。これでもリアルのアクア様は優しいのよ、なんてね」


 アクア様と一緒にダンジョン攻略……。

 夢?

 自分のほっぺたを思いっきり殴ってみる。

 ……いっっったっ。


「≪ミッカ≫どうしたの⁉ 急に自分を殴ってうずくまったりして!」


「えっと、もしかしてこれは夢なのかなと……」


 戦闘服を着てブーストした状態の腕力で殴ったら、正直死ぬかと思いました。

 良い子のみんなは決して真似しないように……。


「もちろん現実よ。私は柊アクア。あなたの崇拝するアクアその人なのよ。私があなたの可能性を見込んで勧誘しているの。何か、これ以上語る必要があるかしら?」


「ない……です……」


 そうか、それ以上の理由なんて必要ない、ね。

 アクア様と一緒にダンジョン攻略! あーそうか、わたし死んだんだわ。これがうわさの異世界転生なのね!


「1つ言い忘れてたわ。あなたはその素晴らしい再現度のアバターを身にまとって、柊アクアとしてダンジョン配信をするのよ。そして私は相方の天才ヒーラーもえきゅん☆」


「……もえきゅん☆」


 アクア様は一瞬にして、初心者風装備から真っ白なロリータ系のドレスワンピースに衣装チェンジした。


「もえきゅん☆! 伝説のヒーラーもえきゅん☆⁉ ああああああアーカイブで見たことありますっ!」


 光属性魔法と闇属性魔法の最高レベルを極めているという、日本でもトップオブトップのアイドルヒーラー様だ。

 え……もえきゅん☆がアクア様なの⁉ アクア様がもえきゅん☆なの⁉


「モエが~あなたの致命傷も即死もまとめてぜ~んぶ、癒しちゃうぞ♡」


 うわー、本物のもえきゅん☆だー!


 あくまでうわさだけど、もえきゅん☆はCランク以下の魔物なら、魔法攻撃を全部吸収してMPに変換できて、Aランク以下なら魔法攻撃をオートレジストができるとか。

 あとは、キュアオールの使い手で状態異常は常に無効、セイクリッドヒールで倒れた味方も即戦闘復帰させられるらしい……。ホントにうわさ通りなら、まさに伝説級のヒーラーなんだけど。


「アクア様……もえきゅん☆さん……うわさ……本当に光と闇魔法全部極めてるんですか?」


「このかっこうの時はもえきゅん☆って呼ぶんだぞ♡」


「じゃあ、もえきゅん☆さん」


「もえきゅん☆」


 呼び捨て……なんて恐れ多い……。


「これからはあなたがアクア様、モエがもえきゅん☆としてダンジョン配信するのよ? これからあなたはアクアに完璧になりきる訓練をするのよ! ほら、がんばって♡」


 本人を前にしてなりきりプレイってどんな罰ゲーム……アクア様ってば、もえきゅん☆でもSなのね……もう好きっ!


「さっそくだけど、もえきゅん☆の使える魔法をこのアクア様に教えておいてちょうだい!」


「いいわ、ノッてきたわね。えっと~モエは~光魔法レベル10+、闇魔法レベル10+のヒーラーなんだぞ♡」


「10+って……? 魔法の最高レベルは10のはずでは?」


「もちろん、ユニークスキルが使えるって意味よ♡」


 ほえーうわさ通りレベル10なんだー。しかもユニークスキル2つも。


「アクア様のスキルと魔法レベルも教えてほしいにゃ♡」


 もえきゅん☆しゃべる度にいちいちポーズつけるの……かわいいなあ。星とか羽根とか舞い散ってるし。アクア様ももえきゅん☆もかわいすぎる!


「えっと、双剣レベル6で、そこまでのスキルは大体習得済みよ。普段はハイドしてダブルスラッシュかバックスタブを使っているわ。魔法は、雷魔法レベル5、風魔法レベル4、火魔法レベル2よ。速度上げと麻痺帯電を使うことが多い、かな」


 レベルが低くて幻滅されたかな……。

 基本不意打ち専門なので、弱点さえわかっていれば、オークロードくらいならソロで何とかなるんだけど。


「なるほど~。なかなかバランスいいわね。これまでずっとソロ?」


「初心者の頃はギルドに所属していましたけど、最近オークロード専門にし始めてからはずっとソロですね」


「アクア様のしゃべり方を忘れてるぞ♡」


「あああ、最近はずっとソロよ! 何か文句あるかしら⁉」


「よきよき~。≪Love Heart≫バキューン♡」


 もえきゅん☆が指で鉄砲の形を作り、わたしめがけて撃つ真似をする。すると指の先から、ピンク色のハート型の煙が……わたしに向かって飛んできて……命中して消えた。


「えっ、急に何です⁉」


「サキュバスから吸収したスキル≪Love Heart≫だぞ♡」


「吸収した……スキル?」


 聞きなれない単語に、わたしが首をかしげると、もえきゅん☆はうれしそうに笑った。


「モエのユニークスキル≪Black Hole≫で相手からスキルを吸収できちゃうんだぞ♡」


 スキルを吸収⁉ なにそれ、やばいユニークスキル!


 ユニークスキルの習得は、先天的な場合もあれば後天的な場合もあると言われている。ただ、どちらにしても習得条件が不明なもののほうが多い。たまに似たようなスキルを持っている人も現れるらしいが、基本的には世界に1人しか習得を確認できていないスキルのことを、政府が便宜上「ユニークスキル」と呼んで管理している。


「えっと、使用上の制約なんかは……?」


 ユニークスキルは有用なスキルも多いが、一方で使用にあたって制約やデメリットがある場合も少なくない。

 たとえばわたしの≪Order change≫は1度使用すると12時間効果が持続する。その間に自分の意思で解除はできない。……でもね、スーツを脱いでしまえば実質解除されちゃうので、今のところ不自由はないけどね。


「相手の精神抵抗が高くてレジストされたら、モエに返ってきて、逆にスキルを奪われちゃうかもね? もちろん今まで1回もないよ♡」


「実質スキル奪い放題……」


 制約デメリットなしで、とんでもないユニークスキルだよぉ……。


「絶対奪えるわけじゃないからね。≪Black Hole≫を使えるのは、1個体につき1回だけ。ユニークスキルは奪えないし、レベルの高いスキルを奪おうとすると失敗しちゃうことも多いの。奪えてもモエと相性が悪いスキルは定着せずに消えちゃうことも多いし」


 万能なようで、微妙に制限がかかっている感じ、なのかな。


「ちなみにさっきの≪Love Heart≫は、どんなスキルなの?」


「命中した相手を奴隷にするスキルだよ♡」


 え、やば。

 わたし、さっき撃ち抜かれた、よね……。なんともない? スキル発動せず?


「『自分に命中したのに何も起きてない』って顔してるね。アクア様ってば、かわいいっ♡」


 もえきゅん☆がいたずらっぽく笑う。

 なんでなんで?


「もとからモエのことをだ~い好きな人には効かないスキルだぞ♡ もう最初からモエの奴隷だからね♡」


 そう言いながら、もえきゅん☆がもう一度指鉄砲を作って、≪Love Heart≫を撃ってくる。

 わたし、もう奴隷だったのね……。でも悪い気はしない、かな?


「≪Love Heart≫ほしい? 好きな人に撃ったら両想いになれるかもね♡」


「え、ほしいって……スキルって人に渡せるの?」


「一時的にだけど渡せるよ。モエのもう1つのユニークスキル≪Give You≫でね♡」


 そっちのユニークスキルもやばそう……。



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