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第5話 苦手なシチュエーションでの戦闘をチェックします

「まずはアクア様の戦い方をみせてもらおうかな♡」


「ここで、ですか……」


 連れてこられたのは砂浜のフィールドだった。砂に足を取られて速度が出ないので超苦手な場所だ。加えて出現するモンスターも小型が多く、すぐに砂に潜って逃げるので、物理攻撃が当てにくい……。


「得意な戦い方はオークロードで見せてもらってるから、苦手なところでの戦い方を見て対策を練るんだぞ♡」


 なるほど。

 ペアで狩っていくなら、前衛はわたしだけということになる。もえきゅん☆は後衛だし、これまで見た記録映像だと攻撃しているところは見たことないから、支援特化なのだと思う。

 わたしが倒せなければペア狩りが成立しないということ……。責任重大。


「行きます!」


 近場にいるヒトデをターゲットにする。3体湧きだ。

 まずは戦いの流れをシミュレートする。

 足場が悪いので、真っ向勝負だと距離を詰めるのに時間がかかる。そしてたどり着く前にこちらに気づかれてアクティブになってしまう。そうするとヒトデは毒液を吐いて周りに沼を作ってくるだろう。ということは、そうなってしまうと近接戦闘が難しくなる。


 つまり、真っ向勝負を避けたわたしの戦い方の正解はこうだ。

 投擲用の短刀に雷魔法で帯電させる。投げて命中すれば一定確率で麻痺させられる。麻痺している隙に距離を詰めてスラッシュ!

 こちらに気づかれなければ、わたしの投擲スキルでも、なんとか小型モンスターに当てることはできる。

 これだ!


「ヒトデ! このアクア様が行くわよ!」


 と、意気込んでみたものの、やはり現実は厳しかった。

 1発目の投擲はなんとか当たったけれどヒトデは麻痺せず。当然こちらに気づかれて毒沼の防御が……。


「どうしよう……」


 いつもだったら諦めて他を探すところだけど……もえきゅん☆に戦い方を見せないと……。


 毒沼ギリギリまで接敵。ええーい、あとはジャンプして真上から攻撃だ! 独沼の淵から少し距離を取り、助走をつけてジャンプ。水泳の飛び込みのようなかっこうで、ヒトデに向かって頭から突っ込む。

 うおーーーーー!


 真上からの攻撃に気づいたヒトデ3体による毒吹き付け一斉攻撃。ジャンプしてしまっているわたしに軌道修正はかなわない。


「やばっ」


 つっこんだ頭から、毒液をまともにすべて食らって、かなりのダメージ。そして毒状態になり継続ダメージを食らってしまう。

 それでもなんとか慣性で接敵できたので倒れこむようにスラッシュ。一撃で3体まとめて処理して毒沼から這い出るように離脱……。

 お粗末……。


「うう……痛いよ」


 即致命傷になるほどの強い毒ではないけれど、広範囲に肌を焼かれてチクチク痛い。震える手でアイテムボックスからキュアポーションを探す。


「キュアー♡ ヒール♡」


 もえきゅん☆の魔法ですぐさま毒状態が解除され、傷が癒えていく。


「すみません……助かりました」


 完全回復。

 わたしは立ち上がって体についた砂をパタパタと払った。


「なるほど~。だいたいわかったんだぞ♡ 次にいこ~」


 もえきゅん☆がうれしそうにウィンクしてくる。

 あんなひどい戦いを見せてしまったのに、機嫌が良さそうなのはなんでなの……。



* * *


「次はここですか……」


 ダンジョンの通路だ。周りの材質は石。天井は3メートルもないくらいで、通路は人がやっとすれ違える程度の幅しかない。とても狭い。

 これもまた苦手な場所。

 常に敵と正対することになるので、一直線にしか攻撃ができない。つまり不意打ちがしにくいのだ。


「ここでの戦い方もみせてね♡」


「はい……」


 正面に現れたのはストーンナイト。とくに硬い敵……。

 わたしの攻撃力だと一撃では倒せない。弱点を突かないと。


「行きます」


 弱点と言えば、石には雷だ。

 ハイドで姿を消し、距離を詰める。背中側に迂回して接敵するのが定石。敵の正面から向かえばハイドしていても気づかれやすいからだ。だけど、ここは通路が狭くてそれができない。

 ストーンナイトの索敵範囲ギリギリまで距離を詰めて、遠距離からの落雷を発動。ストーンナイトの頭から雷を落とす。


 よし、麻痺った。

 あとは一気に、スラッシュ! ダブルスラッシュ! からのコンボスラッシュ!

 ふう、4連撃でなんとか倒した。


「どうでしょうか⁉」


 今回はなかなかうまくやれたのでは?


「なるほどなるほど♡」


 やはりもえきゅん☆はニコニコするばかりで戦闘に対する評価はしてくれない。


「次いこっか♡」



* * *


「ここは……」


 次に連れてこられたのは闘技場マップの入り口だった。

 天井が高く広い空間。四方の入り口からは石畳が伸びていて、その中央には直径30メートルくらいの円形の闘技場が用意されている。

 反対側の入り口には、すでにメイジが出現していて、こちらに向かって歩いてきていた。


 魔法系の上級モンスター。複数属性の魔法を使ってくる厄介な相手だ。

 距離を取れば大魔法がバンバン飛んでくる。かといって距離を詰めても、短い詠唱でバリア系の守りを固めてくるのでなかなか物理攻撃も通りにくい。

 ソロで討伐することはあまり想定されていない。物理攻撃と魔法攻撃を組み合わせて削っていくのが定石。

 でも――。


「ここは距離を詰める!」


 このまま大魔法の餌食になると、わたしは魔法防御をそこまで上げていないので一撃で消し飛ぶ可能性が高い。接敵してレベルの低い魔法を耐えつつ戦うほうがまだましだ。


 予想通りメイジは大魔法の詠唱を中断し、防御結界を展開してきた。物理の防御結界を展開中は、同時に魔法の防御結界は張れない。

 つまり、物理の防御結界を展開中には魔法攻撃を、魔法の防御結界を展開中には物理攻撃をしていく。交互に相手の動きに合わせて少しずつ削っていく手法を選択。

 地味だけど、確実な方法だ。


「ファイヤーボール!」


 ほんの少しのダメージでも、蓄積していけばそのうち倒せる!


「ソニックブロー!」


 メイジの防御結界切り替えのタイミングで、少しずつ距離を詰めていく。距離が詰まり切ってしまえばこちらのものだ。


「ファイヤーボール! からのバックスタブ!」


 背中にラストアタックが決まり、メイジは消滅した。

 なんとか削り切った……。


 接敵した後の作戦はこうだった。

 魔法の防御結界展開中に、メイジの顔に向かってあえてファイヤーボールを撃ち出す。当然防御結界にはじかれて、メイジの目の前で花火のような爆発が起きる。ノーダメージだけど派手な爆発だ。メイジが一瞬目を奪われている隙に、背後に回り込み、背中に致命傷となるバックスタブを撃ち込んで一気に狩り取ったというわけ。


「おつかれさま~これで試験は終了だぞ♡」


 今の試験だったの⁉

 まさか赤点……。


「モエがアクア様を強くしてあげるから心配しなくてもいいんだぞ♡ 題して~『アクア様の人体改造計画』を発表しちゃうぞ♡」


 人体改造。わたし、何されちゃうの……。


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