「≪Order change≫ to Avatar 02 & Voice 02.」
アクア様のアバターが解除されて、新たなアバターがわたしを包み込んでいく。
いつもとは違う感覚。温かい気持ちが溢れてくる。
アクア様は爽快感がある。溢れ出るパワーのようなものを感じていたが、もえきゅん☆は違った。慈愛に満ちた気持ちがわたしを支配していく。世界平和を願っている自分がいることに気づく。
これがもえきゅん☆の感覚なのね。なんかもう、すっごい解放感!
『Ready as ordered.』
わたしはゆっくりと目を開いた。
「モエだ~♡ すご~い! そっくりね♡」
もえきゅん☆がぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを表現していた。わかるー、羽があったら飛んでいきたい!
「成功、ですか?」
あ、声がもえきゅん☆になってる♡
「成功だぞ♡」
「成功だぞ♡」
ホントそっくり♡
わたしも一緒になってぴょんぴょん飛び跳ねてしまう。もえきゅん☆になって体が軽くなったかも! どこまでも飛んでいけそう!
「モエになってみた気持ちはどう?」
「すっごい体が軽くてふわふわ飛んでいっちゃいそうかも♡」
「麻衣華にはモエのことがそういうふうに見えてるのね~。興味深い♡」
そっかあ。
わたしはもえきゅん☆になっているわけじゃなくて、わたしから見えている「もえきゅん☆」にわたしはなりきっているのね。これまでわたしから見えている「アクア様」になっていたように。
「麻衣華がアバターって表現しているのは見た目のことだけじゃないってわかったね。身長も体型もさっきまでとは大きく変わっているのに気づいてる?」
あー、たしかに。
アクア様のアバターは、そこまで厳密にはイメージできていなかった体型や筋肉のつき方なんかも、もえきゅん☆のアバターではかなり細かくチェックして再現できているから、そこに差が大きく出ているかも。
「バーチャルなキャラクターとリアルな人間では、手に入る情報量も違うからそうなるのね♡」
イメージした人やキャラクターになりきるユニークスキルかあ。より深くイメージすると、性格や思考パターンも引っ張られていくんだろうなあ。
実際、アクア様から素の自分に戻った時の気持ちの落差はかなりある。アドレナリンがドバドバ出ている状態から、自分に戻った時、スンッて無の状態に落ちるから、しばらく気持ちが落ち着くまで横になる以外の行動が起こせなくなるのが現実だ。
「ね~ね~。今のスキル欄はどんな表示になってる?」
「えっと、あれ? こんな表示見たことないかも……」
双剣スキル10と投擲スキル10に大きく×印がついていた。
「そかそか~そういうふうになるのね~。麻衣華の中でモエが双剣を使っているイメージは湧かないよね? つまりそういうことだと思うんだぞ♡」
習得スキルはわたしの中にある。でも、もえきゅん☆が双剣スキルを使うわけないと思っているから、それを使用することをわたしが自分自身で制限をかけている、って感じなのかな。
「スキルをトレースすることはたぶんできそうね。麻衣華自身のスキル習得上限値までならね。でもアクア様の時に使えるスキルと、モエの時に使えるスキルは違ってきそうだね~」
「なるほどー。たしかにそんな感じはしますね」
「モエがヒールとキュアーを使うところは見てるよね? その2つだけトレースしてみよっか♡ たくさん習得しちゃって麻衣華のスキルリソースを圧迫したら困るし」
「ヒールとキュアー……」
「トレースがうまくいけば、どっちも光魔法のスキルだから、スキル欄に光魔法が生えてくると思うぞ♡」
イメージ。
ヒール……あれ、どんな感じだっけ? 困った。あんまりよく思い出せない。
もう1回見せてくれたりしないかな。
もえきゅん☆のほうを見ると、鼻歌を歌いながらステップを踏んでいた。かわいいなあ♡
「えっとー。あの時ヘロヘロであんまりちゃんと覚えていなくて。もう1回ヒールとキュアー見せてもらったりはー」
「はいは~い。特別出血大サービスだぞ♡」
「ありがとうだぞ♡」
「よ~く見ててね。ヒール♡」
ふむふむ。右手で投げキッス。なるほどなるほど。
「次は~キュアー♡」
両手で投げキッス。なるほどー♡
「完璧です!」
イメージはできた。あとはうまく≪Order change≫できるか……。
「いくね♡≪Order change≫ to Skill 02.」
一瞬にして目の前が光に包まれる。何も見えない。でも心地良い温かな光。
だんだんと光が弱くなり、日常の風景が戻ってくる。
「……終わったみたい」
「スキルはどう? うまくいったかにゃ?」
えっと、スキル欄は。
「あります! 光魔法レベル1! ×がついてないので使えそう♡」
「やったにゃ♡ 使ってみよ♡」
いっけー。右手投げキッス♡
「ヒール♡」
カチッ
「ヒール♡……あ、きた」
カチッとしたレベルアップの感覚。
スキル欄を見ると……光魔法レベル10になってる!
「光魔法がレベル10にいいいいい⁉」
「えへ♡ スキルポイント付与しすぎちゃったかも♡」
「わたしのスキルポイントを戻しただけじゃなかったんですか⁉」
絶対計算合わないよね。
双剣スキルと投擲スキルが10になっているし、他のも魔法スキルの残りポイント分で光魔法がカンストするほどポイントが余ってるわけないし。
「なりきりの実験にも必要かな~って、ちょっと多めに付与しておいたぞ♡」
「多めって……いったいどれくらいです?」
「念のため3桁くらい増しておいたぞ♡」
念のためって。
どういう計算でスキルレベルが上がるかわからないけど、絶対とんでもないポイントですよね?
「たぶんレベル10になるのに累計10万ポイントくらいなんだぞ♡」
「10万……ピンとこないんですけど、ちなみにポイントレートはどれくらいなんです?」
「ん~正確にはわからないけど~、スキルを使用すると1%くらいの確率で1ポイント? モンスターのラストアタックで1ポイント確定で、ボスクラスだと3ポイント確定にゃ♡」
「10万までの道のり、やびゃい……えっと、わたしに何ポイント付与したんでしたっけ?」
「ん~、1000万ポイント?」
「ちょっとぉ! 多すぎますよー! 返します返します!」
そんな貯金怖くて持ってられないよぉ。
「む~り~♡ モエの≪Black Hole≫だとポイントは吸えないのぐすん」
あー泣きマネ! ずるいいいいいいー。もえきゅん☆かわいいいいいいいいい♡
「ユニークスキルのレベルアップにどれくらいポイントが必要かわからないし、計画的にスキルは取得していこうね♡」
うーん。≪Order change≫のレベルが上がった感じはとくにないなあ。どうなんだろう。
謎は深まるばかり。
「あ、着信。なんだろ? ちょっと緊急連絡きたから待ってね~」
もえきゅん☆が急に真面目そうな声を出して、プライベート通話を始めた。プライベート通話は周りの人には口元が隠されて、もちろん音声が聞こえなくなる。
有名ギルドの人は、いろいろなところから頼みごとが来て大変そうだなあ。きっと何かの討伐依頼だったりするんだろうね。
「ね~アクア様~。ちょっとトラブルかも~」
もえきゅん☆が通話を中断してわたしに話しかけてきた。
「大変ですねー。今日の実験はこれくらいにして、また明日訓練をお願いしまーす♡」
ご飯の約束は残念だけど、また今度連れて行ってもらおう♡
「まだダメ~帰さないぞ♡ 急きょアクア様を実践投入しちゃうんだぞ♡」
じっせんとうにゅう……?
実践投入⁉
「ええ、わたし戦うんですか⁉ まだ新しい武器にも慣れてないし、スキルレベルにも……」
「だ~め♡ 早くアクア様に変身して~♡ あっちのダンジョンで救出要請きてるから早く行かなきゃ!」
救出要請……。それは行かないと! わたしが何かできるならぜひ!
「ついでに、『もえきゅん☆と柊アクア様のLOVE♡LOVE♡ペア♡チャンネル』の初配信もしちゃうんだぞ♡」
なんですか、その甘々なチャンネル名……。もっと訓練してから配信というお約束は……はい、救出要請ですもんね、わかりました!