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第12話 スピード勝負だぞ♡

「アクア様待ってよ~。3階には10階との行き来ができる転移ポータルがあるらしいからそれを使いましょ~!」


 先攻して進むわたしに、もえきゅん☆が声をかけてきた。

 救出を待っている人たちはちゃんとマップを隅々まで調べてたのね。えらい!


 転移ポータルにはいくつかのパターンや種類がある。まずパターンとして、自然発生したものとスキルやアイテムによって生成されたものの大きく2つに分かれる。


 今回この新潟北3ダンジョンに発生しているのはこの自然発生パターンのポータルだ。自然発生パターンのポータルの利用は誰でも可能で、第一発見者が独占したりすることはできないルールになっている。

 逆にスキルやアイテムで生成された人工パターンのポータルは作成者に権利があり、許可なく他の者が利用することはできない。新潟までの長距離転送サービスやオークロード討伐のためにわたしが利用していたポータルも人工パターンにあたる。

 また、人工パターンはスキルレベルやアイテムのレアリティによって使用回数や使用人数に制限がかかることが多い。


 ポータルには種類が2つあって、双方向で行き来できるものと一方通行のものが存在している。価値が高いのは、もちろん双方向種だ。

 自然、人工の両パターンともにどちらの種類も存在している。つまり大きな分類としてはポータルは4つに分かれていることになる。

 わたしがアイテムで生成したオークロード討伐専用ポータルは人工パターンで一方通行種だった。予算の兼ね合いでね!

 自然発生パターンでも一方通行のポータルはよく見られる。とくに罠部屋への強制転移させられるポータルを不用意に踏み抜くとパーティー崩壊の危機に直面することもあるので要注意だ。まあ、そういう罠系は触るまでわからないように隠蔽されていることがほとんどだけどね。



 わたしは足を止めてもえきゅん☆の到着を待った。


「アクア様ったら、これはペア狩りで配信中なんだからね~。1人で先に行っちゃったらアクア様の活躍がみんなに届けられなくなっちゃうんだぞ♡」


「それは悪かったわね……でも! それは! アクアが速いのではなくて、もえきゅん☆の足が遅いんじゃなくて?」


「む~言ったなあ。アクア様ってば、ヒーラーは足が遅いって思ってるのね……」


“お?お?ケンカか?ペア崩壊の危機か?”

“アクア様の挑発”

“あっ”

“もえきゅん☆は足速いぞ”

“ヒーラーは基本遅いけどもえきゅん☆は……”


「そんなに言うんだったら~15階までどっちが速くたどり着けるか勝負するんだぞ♡」


 もえきゅん☆が地面を指さして言い放つ。


「このアクアとスピード勝負? いい度胸ね」


 さすがにいくらなんでも速度ではわたしのほうが上よね。もえきゅん☆はいったい何を考えて……あ、そうか、わたしが転移ポータルを使わずに普通に15階まで進むってことね? そのくらいのハンデがあればいい勝負かも。


「じゃ~10階に転移したところからスタートね♡」


 違った。え、ホントに速度勝負なの? それとも10階以降にも他の転移ポータルがあったり?

 あ、わかっちゃいました!

 シルフウィンドを自分だけにかけて、わたしに追いつくつもりね。それでもギリギリわたしのほうが速いと思うけどなあ。


「そんな顔しなくても、アクア様にもちゃんとシルフウィンドをかけてあげるぞ♡」


 余裕たっぷりの投げキッス。

 うそん。もうホントに自力の勝負ってこと? 何を考えているんだろう。

 あー、そういうこと?

 わたしに華を持たせて、「アクア様って超すごい♡」って感じの演出ね⁉ もう、もえきゅん☆ってば、やさしいんだから♡

 そういうことなら、アクアもがんばっちゃうんだぞ♡


 わたしももえきゅん☆もニコニコ顔で3階の転移ポータルへ。

 その間、何体かのモンスターに絡まれたような気もしたけれど、適当に片付けつつ進んでいく。



「じゃあ、ここで転移が終わったらかけっこ勝負スタートなんだぞ♡」


「いいわよー。ちゃんとついてこないと配信事故になっちゃうから覚悟しなさいよー」


「アクア様こそ、モエにおいつけるかな♡ 衣装チェンジ! Wind Fairy Form♡」


 唐突に、もえきゅん☆が衣装チェンジを宣言する。と同時に、光の球体に包まれて見えなくなる。


 え、何?


 すぐに光の球が割れて、中から出てきたのはいつもの白いドレス姿のもえきゅん☆ではなかった。

 全体的に緑のもえきゅん☆がそこにいた。ツタや葉っぱで作られた肩出しのワンピース。それに背中に薄い羽が生えている。 

 まるでティンカーベル?


“でた~もえきゅん☆の妖精スタイル!”

“もえきゅん☆本気じゃん”

“ありがたやー”


「そのかっこうはいったい……?」


「モエのことをただのヒーラーだと思った? ざんねん♡ 他の属性もちゃんと極めてるマジシャンでもあるんだぞ♡」


 えーずるーい。スキル習得には上限があるから、全部マスターなんてできないって言ってたのに! もえきゅん☆ってば、全属性マスターって、自分で言ってた変態の人じゃない!


「どう? 風の妖精バージョンのモエはかわいい?」


 もえきゅん☆はそう言いながら、背中の羽を震わせてその場でクルクル回る。

 足が地面から浮き、ホバーリングしていた。


 浮いてる……。その羽、飾りじゃなくて飛べるの⁉


「もちろん、とってもかわいいわ! あのーところでそれって、飛んでるってことでいいのかしら?」


“妖精は飛べる!常識だぞ♡”

“飛べる飛べる”

“さあおもしろくなってまいりました”

“救助を忘れるな”

“最速で救出するのはどっちだ”


「ふふ♡ アクア様も羽ほしい?」


「ほしい! かも!」


 習得条件を知りたい。やっぱりユニークスキルなのかなあ。


「この勝負でモエに勝ったら教えてあげるんだぞ♡」


「やってやろうじゃないの!」


 否が応でも気合が入る条件。

 手持ちの武器でなんとか速度を上げる方法を考えないと……。

 何が何でも勝って、妖精の羽を手に入れるんだからねっ!


「シルフウィンド♡」


 もえきゅん☆がわたしに風の加護をかけてくれる。もちろんそのあと自分にも同じようにかけていた。



 転移が終わり10階に到着。


「レッツゴー♡」


 もえきゅん☆が背中の羽を震わせて先行する。わたしも地面を蹴り、一気に加速。何とかもえきゅん☆に並走。

 くー、飛行ってやっぱり速い!

 もえきゅん☆は羽から虹色の光を振り撒きながら一直線に飛んでいく。なんていうか、演出が妖精の粉っぽいなあ。ホントにティンカーベルみたいでかわいい。


“2人とも速えー”

“景色の流れが速すぎてマップが把握できん”

“今のところいい勝負!”

“まだこれから”



 10階、11階、12階と順調に駆け抜けていく。

 何かの敵と遭遇してはいるけれど、先行するもえきゅん☆のシルフカッターによって一瞬で粉々になるので、わたしにはすることがない……。


 わたしだって何かしたいのに!


「アクア様ってば暇そうね♡ 次の階はアクア様が先行してもいいんだぞ♡」


「ずっともえきゅん☆のお尻を見ているのも楽しいけれど、そうさせてもらおうかしら?」


「アクア様のエッチ~♡」


 わたしの挑発に、もえきゅん☆がお尻を隠して蛇行しながら飛行し始める。

 常時、妖精の粉が舞っているから、真後ろを走っていても全然お尻なんて見えないんだけどね。



「よし、13階はアクアが先行をもらうわ!」


 足の筋肉を強化して、さらに一段加速する。

 12階までよりも少し狭く険しい氷山の隙間を抜け、氷の回廊へと突入していく。


 回廊に入ると、すぐにビッグフットの大群が押し寄せてくる。

 ここは巣かな?


「いけ、フェニックス!」


 左手のフェニックスを投擲。前方のビッグフットを一掃する。あえて≪rebirth≫を使ってフェニックスを手元に戻さない。速度を緩めず、フェニックスの飛行についていくことで敵の殲滅を狙う。


「おみごと~♡」


“おお! フェニックスが変な動きをしてどんどん敵を倒してる⁉”

“ただのブーメランじゃないぞ”

“使役系?”

“やっぱりあの武器スゲー”


「アクア様ってば強いね♡ でも~攻撃ばっかりに集中してるとモエが追い越しちゃうぞ♡」


 そう言ってもえきゅん☆が加速。いとも簡単にわたしとフェニックスを追い越していく。

 えー速度落としてるつもりはないのに! くやしい!


「やっぱりモエのほうが速いのかな? かな?」


“もえきゅん☆のお尻フリフリ挑発~”

“これは勝負あったか~⁉”


「まだよ! まだ負けるわけにはいかないわ!」


 と吠えてみたはいいけれど、どうしたら勝てるのか見当もつかないわ……。


 ラスト14階の勝負!


 何か手を……。

 何か。

 あ、そうだわ! もしかしたらこの方法ならいけるかも⁉


 フェニックスたち、このアクアに力を貸して!


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