目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
第13話 異様な空間

 わたしたちは階段を駆け下り、ほぼ同時に14階に着いた。


「ここが14階……」


 さっきまでの狭く険しい道が続いてた13階から一転、だだっ広い空間だった。わたしの目に見えているのは、どこまでも続く平らな氷の地面だけ。さっきまであれほど視界を狭めていた吹雪はピタリとやんでいた。雪が降っていないどころか、空気の流れすら感じない無風の状態。

 ハッとして後ろを振り返ると、つい今しがたわたしたちが駆け下りてきた13階との出入口だけが、広い空間の真ん中にぽつんと浮かんでいた。どういう仕組みかわからないけれど、空中に浮かぶ穴1つ。それ以外は360度すべて氷平線だ。

 上を見上げてみても、星1つない漆黒の闇。目を凝らしてみても、天井の行き止まりは見えない。もう一度周りを見渡しても、目印となるようなものは地面の氷以外何一つ見つけられない。

 モンスターの気配すら感じられない。

 ここはいったい――。


「アクア様~、ぼ~っとしてるならモエが先に行っちゃうよ♡」


 この空間の異様さを気に留めることもないのか、もえきゅん☆は妖精の粉を振りまきながら一直線に飛んでいく。

 連携されているマップからすれば、たしかにもえきゅん☆がすっ飛んでいった方角が15階への通路につながっているはず。


 だけどこれは――。


「もえきゅん☆待って! ここ、何かおかしくない⁉」


「大丈夫大丈夫~♡ アクア様早く~♡」


 もえきゅん☆は楽しそうにクルクル回転しながら飛んでいく。


「もうっ! どうなってもしらないんだからねっ!」


 もえきゅん☆がその気ならゲームを再開しよう。

 わたしはさっき思いついたアイディアを試してみることにした。

 うまくいくかな?


 まずはいつものように両手の双剣を力いっぱい投擲する。

 わたしが双剣を投げると、双剣はフェニックスに変化して飛翔していくのだけど……今回はなんと投擲したフェニックスたちの尻尾をしっかりとつかんだまま、手を離さないでいてみる試み!


 予定通り双剣から変化したフェニックスたちは、音速を超えるスピードでまっすぐ前へと飛んでいく。尻尾につかまったままのわたしごと!


 よしっ、うまくいった!


 わたしはフェニックスたちに引っ張られるように、一緒に飛行することに成功していた。『フェニックスの意思』によって、方向転換や速度の調整も自由自在。

 フェニックスの尻尾は虹色に輝く炎をまとっているけれど、武器の使用者のわたしがその炎によって焼かれることはないのでつかまっていても安心だ。


 これでもえきゅん☆の妖精の羽に負けないぞ!


「あ~、アクア様が飛んでる~♡」


 もえきゅん☆はわたしの飛行形態に驚くことなく、隣に並んで楽しそうに飛んでいく。


“アクア様もついに飛行術を!”

“この2人パネ~”

“フェニックスにつかまって飛んでるw発想がすげえとしか言えねえわw”

“これって決着つくのか?”

“2人とも優勝ってことでいいんじゃね”

“ところでこの空間なんだよ?もうボス部屋?”


 そう。ここはまだ14階のはず。だけど、あまりにも違和感がありすぎる。

 13階と違いすぎる環境。

 モンスターの気配すらなく、罠感知をしてみても罠らしきものは発見できず。

 ボス前の階にこんな大規模なセーフティー空間があるなんて聞いたことがない。


「アクア様、もちろん気づいてると思うけど、この空間は罠なんだぞ♡」


 ですよねー。

 明らかに閉じ込められたって感じの状態だと思ってました。


「もしかして、モンスターハウス、ですかね?」


 時限的に仕掛けが作動して、モンスターが一気に押し寄せてくるとかかな……。

 隠れるところがないマップは苦手だわ。


「そういうのじゃないかな~。もっと人工的な罠かな。たぶんここ、本来の14階じゃないんだぞ♡」


 もえきゅん☆がピタリと飛行をやめて、空中で静止。その場でホバーリングする。

 わたしは通り過ぎたのを慌てて引き返す。≪rebirth≫してフェニックスたちを戻し、もえきゅん☆の隣に降り立った。

 連携されたマップだと、ちょうどここが15階との連絡通路があるべき場所だ。

 もちろん辺りには何も見えない。


「つまりどういうことかしら?」


「ん~、わかんないけど~、モエたちを15階に行かせたくないか~、何か他の目的でここに閉じ込めたい人がいるみたい?」


“何トラブル?”

“やっぱおかしいよな。とりあえず協会に緊急通報しといた”

“グッジョブ”

“ぜったいおかしい”

“2人とも気をつけて”

“でも配信は続いているんだな”

“通信は途切れてない”


「そうね~。別に外と連絡が取れないってわけでもないし、いまいちよくわかんないにゃ~♡」


「とりあえず周囲を警戒!」


「は~い♡ 今のところ半径100キロに敵性反応なしだぞ♡」


“100キロ、だと”

“もえきゅん☆そんなに索敵できるの?”

“レーダーもえきゅん☆”

“この空間100キロ以上あるってこと?”


 突然、辺り一面が青白い光で埋め尽くされる。無数の転移ポータルが展開され始めたのだ。


「いよいよ始まるにゃ♡」


 いよいよって……。もえきゅん☆ってば、なんでそんなにうれしそうなの?

 転移してくるのって……もちろん敵、ですよね……。


 双剣を握る手に力が入る。


「アクア様、おちつくにゃ♡ 衣装チェンジ! Snow White Form♡」


 もえきゅん☆が光の球の中で変身する。

 あ、いつもの白いミニワンピ! スノーホワイトってことは、これって白雪姫のイメージだったのね。


「支援系の魔法をた~くさんかけるから、100人組手の特訓のいい機会にゃ♡」


 100人組手ですか……明らかに異常事態なのにもえきゅん☆は落ち着いてるなあ。

 まあ、もえきゅん☆が変わらずニコニコしているということは、きっと勝算はあるのだろう。それだけでなんだか大丈夫な気持ちになってくる。


「フェニックスちゃんたち、アクアと一緒に大暴れするわよ!」


“アクア様がんばれ!”

“フェニックスちゃ~ん”

“もえきゅん☆に敗北の2文字はないから安心せい”


 転移ポータルから、続々とモンスターが現れ始める。

 武装したオークの軍団。そしてゴブリンの軍団だった。

 氷系ダンジョンの新潟北3ダンジョンに縁もゆかりもないと思われるオーク軍、そしてゴブリン軍が次々と転移ポータルを通って現れ続けている。

 こんな数のモンスター初めて見た……。


 基本縄張り意識の強い種族同士だ。オークとゴブリンが共闘なんて聞いたことがない。それが互いに争わず、オーク軍もゴブリン軍も並んだまま隊列を組んで待機している。あきらかに統制された動きだ。それだけで異常事態なのがわかる。


「アクア様どうしたの? やらないの?」


「え、まだ転移し続けているし、敵の目的もわからないから攻撃していいものかどうか……」


 攻撃すること自体が罠だったら? と思うと手を出しづらい。


「アクア様らしくないね♡ 罠なんて関係ナイナイ♡ ぜ~んぶまとめて倒しちゃえばそれで解決なんだぞ♡」


 わたしらしくない、かあ。

 そう、もっとシンプルに! まずは全部倒して、そうしたら黒幕が登場するかもって程度で良いんだよね!


“もえきゅん☆男らしい!”

“脳筋思考でわろたwww”

“オークもゴブリンもまとめて消し炭にしちゃおうぜ”

“アクア様いけ~!”

“セオリー無視で陣形整える前に攻撃する気で草”

“合戦じゃあるまいし、名乗り合う必要もなし。先制攻撃でよかろう”

“モンスター相手は不意打ちが基本じゃね?”


「モエから先制攻撃! ダークプリズン♡」


 もえきゅん☆が右の手のひらを広げた状態で頭上に向かって伸ばし、闇魔法の巨大な闇の牢獄を展開する。

 対軍用の範囲魔法だ。


「インターン!」


 掛け声とともに右手を敵軍に向かって振り下ろす。一瞬にしてオーク軍もゴブリン軍も半数以上が、もえきゅん☆の展開した牢屋に閉じ込められた。


「バイバイ♡」


 牢屋に閉じ込められたモンスターたちに向かって笑顔で手を振った後、もえきゅん☆は開いていた右手を握りしめた。

 その動きに呼応するようにダークプリズンは一気に集束して豆粒のようになり、一瞬にしてオークたちもろともこの空間から消滅した。


“もえきゅん☆容赦ないw”

“闇の天使現る”

“死の笑顔”

“一瞬にして敵軍壊滅”

“一騎当千すぎてやべー”

“これで支援職ってマ?”


「次はアクア様の番だぞ♡」


 今出現している敵軍はほとんど消えてなくなったが、まだ転移ポータルからの進軍は続いていた。

 次はわたしもいっちょやったりますか~!


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?