「もえきゅん☆に続いて派手に暴れてみよう!」とは思ったものの、わたしは対軍どころか、範囲スキルすら持ち合わせていなかった。
フェニックスたちに任せて一気に倒せそうだけどそれはそれでどうなんだろう、って感じだし。
「ま~100人組手だから、1体ずついきますかね」
もえきゅん☆のバフ盛り盛りの状態で、単騎で敵軍につっこんでいく。
よし、わたしの速度を目で追えるようなランクの敵はいなそう。
さしたる抵抗に遭うこともなく、次々にオークやゴブリンの首をはねていく。
スラッシュ。スラッシュ。スラッシュ!
踊るように回転しながら敵の首をはねていく。
一応シャーマン系は要警戒なので、優先で倒していくが、こちらも特に抵抗されたりはしていないので問題なし。
ホブゴブリンやオークジェネラルなんかもちらほら出現していたけれど、不意打ちができれば、ちょっと体力がある程度の違いで下位種と何ら変わらない。
双剣スキル10になって鳳凰の双剣を持ったアクア様の敵ではないのだよ。アハハハハ!
「もえきゅ~ん☆、だいたい片付いたわよ。ずいぶん骨のない相手だこと」
わたしはもえきゅん☆に向かって、双剣を振って見せた。
モンスターたちが隊列を組んでいたのは最初だけで、あとはパラパラと転移してくるだけだから、わりと余裕をもって対処できたかな。
堅いところを蹴散らしてくれたダークプリズンのおかげだー。
“アクア様もつえー”
“返り血で衣装が真っ赤に染まって……”
“もともと赤い衣装だっつーのw”
“オークとゴブリンの血は紫だぞ”
「アクア様、大きいの来る」
もえきゅん☆の呼びかけと同時に、わたしのほうでも出現の予兆を感知していた。
巨大な魔力をもった敵が4体転移してこようとしている。
わたしはフェニックスにつかまり、急いでもえきゅん☆の元へと戻る。
「オークロードとゴブリンキングが仲良く登場だね♡」
「でもこんなことってあるんです?」
どんなに大きな群れにも、基本的に統率者は1体しかいないはず。それなのに、オークロードが2体、ゴブリンキングが2体の計4体も首級のモンスターが並んでいるなんて。
しかも互いに殴り合ったりもせず、静かにこちらの存在をとらえている。
“さすがにこれはおかしいだろw”
“逃げたほうがよくないか?”
“4つの群れが共闘している?”
“共闘?そんな知能があるって話は聞いたことないが”
「さらに上位種がいるかもね♡」
オークロード、ゴブリンキングはそれぞれの種族の最高ランクのはず。さらに上位種なんて聞いたことがない。
「まさか変異種?」
「どうだろ~。もしかしたら何か別のかも?」
なんにしても目の前の首級を倒さないと、それに対する回答は出なさそうだ。
とりあえず、1体ずつやったりますかー。
「アクア様がやるのかにゃ?」
「当然いくわ。帯電ちょうだい」
双剣に雷のエンチャントをもらって接敵。
「今日こそスキルストーンはこのアクアがいただくわよ!」
15963体目のオークロードにスライディング、からのアキレス腱切断。……アキレス腱を切断?
「あれ? アキレス腱が?」
アキレス腱を狙ったはずの攻撃は、オークロードの両方の足首から下をきれいに消し飛ばしていた。オークロードは苦悶の表情を浮かべてその場に倒れこむ。
どうやらエンチャントの威力が強すぎて、麻痺だけではなく落雷による爆発が追加されているようだ。
単純に鳳凰の双剣が強いから威力が上がっているというのもあるかもしれない。
んーそれなら。
倒れて悶絶しているオークロードを無視して、もう1体のオークロードの足元に接近。ためしに、オークロードの顎の下から頭に向かって、左手のフェニックスを投擲してみる。
フェニックスが高周波で小さく鳴いた後、鋭いくちばしでいとも簡単にオークロードの喉元を咬みちぎる。と同時に尻尾に触れた体が、高温の炎に焼かれて消し炭になっていた。
ああ、やっぱり……。フェニックスちゃん強すぎるわ。たぶん炎で焼くだけでも倒せそう……。
案の定、数秒後には他の3体も左手のフェニックスの炎によって、ただの焚火の材料へと変わっていた。
「アハハ……」
わたしの出番は回ってこなかった。
ロードもキングも、まあまあ強いボスのはずなのに……。
フェニックスちゃん、わたしよりも全然強いんじゃ……。
「アクア様かっこいい♡」
「いや、足首を切った以外何も……」
“ボスクラスが雑魚扱いでわろたwww”
“アクア様!アクア様!”
“瞬きしたらボス4体が燃えていた件”
“瞬きしてなくてもそうだから安心しろ”
“足首切った後、ただ鳥を眺めるだけのアクア様かわいい”
“これでDランクはウソだろw”
「スキルストーン出たかにゃ?」
「出ないわ……」
ホントに存在しているドロップ品なのかな。ガセ情報かも。ちょっと自信なくなってきた。
「モエも一緒に通ってあげるから元気出して♡」
「ありがとうもえきゅん♡」
わたしは、もえきゅん☆に抱きついた。
やさしいもえきゅん☆大好きー!
“と う と つ な ゆ り て ん か い”
“尊い”
“ああ浄化されていく……”
“アンデッド系視聴者はおかえりいただいて”
“スキルストーン?”
“ボスから出るレアアイテムね”
“一応データベースには登録されてるらしいが”
“知り合いが出したって言ってた”
“マジ情報?”
“メデューサクイーンからなんか出したらしい”
「スキルストーンは存在してる!」
「ホントにドロップした人いるんだ♡ いい情報ありがと♡」
“もえきゅん☆ドロップしてそうなのに”
“もえきゅん☆もみたことがないとか相当だな”
“もえきゅん☆なら2,3個持っているイメージある”
「スキルストーンなんて見たことないよ~。そんな伝説級のレアアイテム持ってるわけないでしょ♡ みんなモエのことどんなふうに思ってるのよ~」
「アクアも、もえきゅん☆なら持ってそうって思ってたわ……」
「やだ~、アクア様まで~♡」
だって、スキルレベルもやばいし、装備もやばいし、ユニークスキル複数持ってるし。
「アクア様! 転移ポータルが活性化してる。何か来るかも!」
もえきゅん☆が指さす方向を見ると、1つだけ活性化している転移ポータルを見つけた。
「オークロードとゴブリンキングで終わりじゃなかったの⁉」
やっぱり、もっと上位種か変異種が……でもポータル小さいし、敵性反応も感じられない?
「ん~これは~」
転移ポータルから出現したのは敵ではなかった。
というより生き物でもなかった。
バラ。ばら。薔薇。
切り花になった真っ赤な薔薇の花が転移ポータルから噴き出してくる。
「え、なに?」
“薔薇の敵なんていたか?”
“転移ポータル壊れた?”
“花屋とつながっているポータル”
“唐突な花でわろた”
「終わったかにゃ?」
薔薇が辺り一面を埋め尽くすほど噴き出した後、最後の転移ポータルは静かに光を失っていった。
「何かの罠、なのかな……」
「そういうのじゃなさそうかな~。バラの花……。たぶん15階への通路も……あった♡」
薔薇の花をかき分けて、もえきゅん☆が言う。
「この薔薇何なんだろう」
「……さあね~?」
無表情のまま、もえきゅん☆が15階の階段を下りていく。
ひとまず無事脱出できてよかった、かな。