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馴染みの店 3

 翌日、私はまた1人で店を訪れた。

「じっくり考えた?」

 マスターが尋ねた。

「はい」

「それで結論は?」

「プロポーズします」

 その話は近くにいたスタッフの耳にも入った。

「おめでとう」

 そういう言葉も聞こえたが、まだプロボースが成功したわけではない。

「いや、まだ早いよ。雨宮さんが決心したということだから、きちんと結果を見て、その上でみんなで祝おう」

 その場にいた他のお客さんも、プロポーズという言葉が耳に入っており、またこの店は常連が多いので、顔見知りの人もいる。店内では自然に拍手で包まれた。

「こうなると、ぜひプロポーズを成功させたいね。今度いつ一緒に来る? その時に俺たちも応援するから、場を盛り上げてOKを取ろう。この店から新しい夫婦ができる、とても良いことだ。ウチとしても嬉しいよ」

「ありがとうございます。指輪とか用意しないといけないので、来週の日曜日に連れてきます。よろしくお願いします」

「分かった。じゃあ、今日は前祝だ。好きなもの注文していいよ。私のおごりだ」

「それでは申し訳ありませんので、きちんとお支払いします。相談に乗ってもらったりすることで、僕のほうから何かお礼をしなければいけないのに・・・」

「いや、いいんだ。こういう店をやっているとお客さん同士の喜怒哀楽の様子をいろいろ見る。喜ばしいことなら嬉しいが、他のことなら店の空気も沈んでしまう。雨宮さんの話は店を明るくしてくれることだ。良いことがあれば、口コミでこの店で幸せになった、って評判になるかもしれない。今はSNSで知らない内に評判になるからね。これは宣伝料さ。そう考えると安いもんだ」

マスターはそう言うけれど、性格を知っている常連はそれが本音だと誰も思っていない。良い性格だからこそ集まってくるわけなので、そのセリフは私への配慮なのだ。


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